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大規模な霧で覆われた市庁舎、別府タワーの巨大な前掛け…1組の作家とじっくり向き合う地域性を活かした芸術祭『in BEPPU』【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(9)
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  • 2020.10.09
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大規模な霧で覆われた市庁舎、別府タワーの巨大な前掛け…1組の作家とじっくり向き合う地域性を活かした芸術祭『in BEPPU』【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(9)

ロッククライマーの協力で作品が完成!

翌2017年は西野 達さんを招きました。西野さんはシンガポールのマーライオンをはじめ、世界各国でその土地のシンボルともいえる彫刻作品を取り囲み、ホテルに仕立てた空間を作品として発表してきました。西野さんは非常にアイデア豊富なアーティストです。加えて1つひとつの作品の規模が大きく、多数のアーティストが参加するグループ展形式の芸術祭では、予算や人的リソースが分散してしまうため、実現できる作品の数が限られてしまいます。個展形式の『in BEPPU』であれば、担当者がしっかりと向き合い、そのプロジェクトを実現させることができるのではないかと考えたのです。

ある日、西野さんから1枚のドローイングを手渡されました。それは別府タワーの展望台を顔に見立て、地蔵のように前掛けを掛けたものでした。担当者はそれをもとに、制作の手法や納期、予算など、さまざまな面から実現の可能性を検証します。最も頭を悩ませたのは、施工の方法でした。思い悩んだ挙句、ロッククライマーに高所作業への協力を要請することにしました。彼らはまるで特撮ヒーローのように、ワイヤー1本でタワーを登り降りしながら、タワーに顔を描き前掛けを取り付けてくれたのです。

別府タワーに前掛けをかけるロッククライマー

別府タワー地蔵(2017年、西野 達) 撮影:脇屋伸光 (C)混浴温泉世界実行委員会

そのほかにも、駅前の油屋熊八翁の銅像を取り囲み、檜造りの露天風呂を備えた旅館に仕立てたり、発泡スチロールで原寸大の家を作ったり、奇妙な瞬間を収めた写真の展示や、引っ越しの荷物を積んだトラックを串刺しにしたインスタレーションなど、全部で8つのプロジェクトが実現しました。そのどれもが、別府タワーと同じように1枚のドローイングから実現のための手法を探るというプロセスを経て生まれたのです。

油屋ホテル(2017年、西野 達) 撮影:脇屋伸光 (C)混浴温泉世界実行委員会

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