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ゲーム障害の定義は「社会生活に問題が生じる」かどうか。規制条例問題で見えづらくなった「臨床のリアル」を聞く
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  • 2020.10.20
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ゲーム障害の定義は「社会生活に問題が生じる」かどうか。規制条例問題で見えづらくなった「臨床のリアル」を聞く

ネット上ではゲーム障害当事者の声が見えてこない

Photo by Shutterstock

ーー 依存という問題全体に関わることですが、ゲームに限らず快感が伴うものはすべからく依存状態になってしまう可能性があるのでしょうか?

三原:確かに、なんでもかんでも依存にしてしまう研究者もいて、学術論文でもセルフィー(自撮り)依存やアルゼンチンタンゴ依存といった論文が発表されています。

しかし、それをやりすぎると「何でもかんでも依存なら、大した問題じゃないじゃないか」と行動嗜癖の定義のの妥当性が下がってしまいますよね。もちろん脳から快楽物質が出ているのであれば、人がそれに依存する可能性はあるものの、それによって社会生活に問題が生じているか、問題行動があるかということをちゃんと見なければいけません。

ーー 例えば野球のイチロー選手は小さい頃から野球漬けの生活で、ある種の野球依存と言えると思うんですが、プロ野球という「社会生活の場」があるおかげで依存とは見られないのかなと思います。

三原:先ほども言ったように、依存の定義は「社会生活を送る上で問題があるかどうか」。プロ野球選手の場合は、野球をすることで生活が破綻しているわけではないですよね。なので野球依存行動とは言えるかもしれませんが、野球依存状態とは言えません。

ーー 久里浜医療センターはゲーム規制反対派にとって、「権力による人権侵害を推し進める悪の巣窟」のように語られることも多いですが、その点についてはどのようにお考えですか?

三原:もちろん、そんなことがしたいわけではなく、目の前の患者さんを一人でも快方に向かわせたいだけなんです。

各国の研究者や臨床家が集まり、ゲーム障害の診断基準策定の過程でも色々な意見がありました。ゲームを適正に楽しんでいるヘルシーユーザーにも「依存症患者」というスティグマ(負の烙印)を与えてしまうのではないかと。だからこそ、過剰診断にならないように厳密な基準が定められています。アルコール依存症を定義したからといってアルコールを飲むこと自体を否定しているわけではないのと同じように、ゲームをすること自体には何の問題もありません。

ただ、ネット上ではゲーム障害の当事者や、その家族の声は取り上げられることが少ないので見えづらいのですが、実際に依存で苦しんでいる人たちがいるということだけはわかってほしいのです。



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