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「日本はなぜ冷戦時代に繁栄できたか」から考える、イデオロギー対立の無意味さ【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(10)
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  • 2020.12.30
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「日本はなぜ冷戦時代に繁栄できたか」から考える、イデオロギー対立の無意味さ【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(10)

5:「イデオロギーでイッちゃってる人」か「問題を直視している人」か

Photo by Shutterstock

このように「20世紀の歴史」を網羅的に見てみると、「片方側に肩入れしてもう一方を非難するだけの言論」がいかに意味がないかということがわかりますよね。

「リベラル派」は、20世紀の世界に吹き荒れた共産主義の脅威を軽視しすぎているので、それを抑止するために過剰に暴力的な手段を取った存在を徹底的に否定して

「俺達は全然悪くない、あいつらが全部悪い」

をやろうとするわけですが、そういうのは、

「宇宙船の自爆装置を押そうとする暴徒と、それを抑止するために過剰に暴力的になったリーダーがいた」

みたいなものなので、「お前たちの方が全部悪い」と永遠に言い合っているだけでは解決しないですよね。「俺もお前も同じ宇宙船に乗ってるんだぜ」ってことを忘れちゃ困るわけですよ。

「そもそもそういう対立が起きないように考えるのがどっちの派閥にいる人にも課せられている責任なのだ」

と考える必要がある。

DHC社の会長のようなレベルの差別主義が消えずに残るのは、「純粋な理屈だけで押し切って社会変革をしようとした時に、運動が現実をグリップする力を失って大変な悲劇に繋がった」という20世紀の歴史の教訓だとすら言えます。

大事なのは、その「彼ら側の本質的な懸念」と「差別主義」を切り離し、「彼らの懸念」は差別主義と結びつかなくても表現できるのだ…という道筋を、イデオロギー的な党派対立を離れてお互いに持ち寄って考えることなわけです。

これは逆もそうで、「リベラル側の懸念」だって両側から解決していく必要はもちろんあります。

無軌道な資本主義の暴走をそのままに放置し、あらゆる是正の動きを弾圧し続ければ、19世紀末には非常に繁栄していた先進地域だった南米が、今や巨大な経済格差と政治不安が蔓延する大陸になってしまっているわけですからね。

だからこそ、「左右のイデオロギー対立」を超えた、「リアルな議論」をいかに共有できるかが重要な時代なのだ…というのが私たち人類が20世紀で得た巨大な教訓であると言えるでしょう。

知識階層にいる「個人」からしてみれば、「リアルな議論」をするより「ワルモノ」になってくれる存在を徹底的にけなしまくる言論をやる方が楽なわけです。

全部「ファシスト」「差別主義者」のせいにすればいい。ちょっとでも気に入らないヤツは全部「ヒトラー!」「差別主義者!」と罵ればスカッとするよね!あるいは逆に、ありとあらゆることを全部「アカ・左巻き・サヨク」のせいにすればいい。

しかしこういうのは同じレベルの対立にすぎない。

特に「第二次世界大戦の勝敗」によってスティグマ(負の烙印)を貼り付ける仕草が20世紀のとりあえずの世界平和を維持していた面があるので、「リベラル側」が、「自分たち以外」を「差別主義者」とか「ヒトラー」とか呼べば「自分たちは一切何も悪くない」と簡単に思い込めてしまうモラルハザードが過去には蔓延しており、それが逆に過剰なバックラッシュを生んでしまっている側面があるわけです。

6:「あらゆる問題がイデオロギー対立にしか見えない老害」たちに退場いただこう

新聞記者が個人でSNSで発信するようになって、新聞というものへの信頼感が一気に損なわれた

みたいな話を最近よく聞くんですが、しかし私と同世代かちょっと上(40~50代)ぐらいの新聞記者のアカウント(特に海外特派員組)などは、物凄く勉強になるなあ、と思って私はたくさんフォローしています。いろいろなニュースについてその地域の実情に沿った多面的な見方を提供してくれている。

問題は、もっと上の「イデオロギー世代」とそれを目指したい少数の若いフォロワー的な人たちで…。

たとえば

「台湾のコロナ対策が素晴らしい!さすが民主主義の先進国!日本はもうダメだね!」

と言った次の日に、「じゃあ日本でも迅速な行政サービス実行のためのIT投資を」という話になったら

「国民背番号制度で民衆を管理する気だな!反対!!徹底した議論を尽くすべき!」

と反対する…みたいなのは正気の沙汰とは思えません。ほんと20世紀の人類の愚かしさを煮込んで結晶体にしたような人たちだと思います。

「こういうの」と、「チョントリー発言」みたいなのは本当に同レベルなことなんだ…というのは、これからの時代真剣に理解するべきことだと思います。

コロナ対策にしても、もっと巨大で複雑な課題であるところの気候変動問題にしろ、こういう「無責任な批判」が暴走することは、現実をグリップするための調整役として過剰な「右」の暴走を必要とするわけです。

日本は、気候変動問題に対して大きなアクションが必要なタイミングだし、しかも国土の形状的に「巨大な砂漠に大量のソーラーパネルを置く」みたいなことができない中で何かとにかくオリジナルに真剣な方策を考えなくてはいけません。

しかし「実体と違う理想化した欧州の例を持ち出して日本政府をこきおろす」エネルギーが暴走すればするほど、非現実的な空論に暴走して大悲劇が起こってしまうため、「簡単な一歩」さえ踏み出せない過剰な保守性でブロックする必要が出てくるのだ…というのが20世紀の歴史の力学から学ぶべきことなわけです。

20世紀には毛沢東が「スズメが作物を食い荒らす害獣だ!」と言って中国全土でスズメ狩りを行い、結果として別の害虫が蔓延して酷い不作になったりました。それ以外にも次々と「非現実的なイデオロギー的空論」を実行しまくった結果、数千万人が餓死したと言われています。

「自然エネルギーの導入」にあたっての熱狂でも、同じことが起きないと考えているとしたら、その人は「歴史を直視していない」人だといえるでしょう。

つまり「差別主義者」に見える存在がいる時、リベラル派はそれを批判するだけでなく、「自分たちの論理が空論に陥ってないかを自己点検」するべきなのだ…というのが20世紀の歴史を直視した上での最大の教訓なわけですね。

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