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木村花さん自殺でも止まらないネットの誹謗中傷。我々は今、凶器を手にしている【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(22)
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  • 2021.04.01
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木村花さん自殺でも止まらないネットの誹謗中傷。我々は今、凶器を手にしている【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(22)

軽い気持ちでは済まされない。ネットの誹謗中傷に法整備を

これから木村さんにまつわる裁判は母親の木村響子さんが進めていく。ネットの誹謗中傷については、かつてある殺人事件の加害者扱いをされた芸人のスマイリーキクチさんが長年の闘いの末に冤罪を証明された例がある。

キクチさんは元々は芸人として活躍していたが、いつしか「ネットの誹謗中傷に対峙した人」という立場になった。本来芸人の活動に専念したかっただろうに、その活動を邪魔される騒動に巻き込まれ、以後理解者の少ない長き闘いに入った。

キクチさんの場合、誹謗中傷者19人の書類送検に至るまで1999年頃から2009年初頭までの長期にわたってかかった。当時の警察は「ネットなんて便所の書き込みでしょ?」的なスタンスだったため、その深刻さを理解してもらえなかったのだ。

だからこそ10年もかかってしまった。今回、木村さんの件も、ツイッターとプロバイダの開示請求には裁判を起こしてまでようやく認められた。

ネットの誹謗中傷に対する世間の理解は進んだ感があるが、なんだかんだいって「被害者が泣き寝入りする」事態の方が圧倒的に多いのが事実である。開示請求にあまりにも手間がかかるし、SNSの運営者やプロバイダは余計な仕事を増やしたくないため個人情報保護法を盾にして開示を拒否する。

そこをいかにして突破するかは弁護士の腕前にかかっているというのが現状である。

しかも、問題は、ネット上に安易に誹謗中傷を書く人々が「軽い気持ちだった」と多くの場合言うことだ。ネットとはいえ公の場なのだが、一時期の感情で誰かを傷つけ、場合によっては自殺に追い込む。さらに、有罪判決が出たとしても、カネがなく賠償金を払えない例もある。

それだけの凶器を我々は手にしてしまったのである。銃刀法は人々が安易に銃刀で人を傷つけぬよう存在するが、ネットにしても同じである。今後、「過去にネットの誹謗中傷で誰かを自殺に追い込んだ者は今後一切のネット発言を禁ずる」といったことにもなるかもしれない。

表現の自由の問題との兼ね合いはあるにせよ、この手の法整備は進めなくてはならないだろう。いい加減、ネットがない時代を前提とした法律の数々は刷新せい! 立ち上がれ、日本の法曹関係者よ! と思うのである。


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