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10年間で日本人は進歩できたか? デマと不謹慎厨が跋扈した、東日本大震災を巡るツイッターの空気感から学べること【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(23)
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  • 2021.04.30
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10年間で日本人は進歩できたか? デマと不謹慎厨が跋扈した、東日本大震災を巡るツイッターの空気感から学べること【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(23)

コロナ禍で狼狽する今、考えたい「情報」について

Photo by Shutterstock

④気持ちの悪い「絆」ブーム
2011年の日本漢字能力検定協会による「今年の漢字」は「絆」になった。「絆」は散々メディアが震災以降提唱した言葉だったが、まさかのこの年を表す言葉になったとは……。「絆」なんてものはなかったと思う。結局「与える側」が千羽鶴を被災地に送り自己満足を得ただけだったりもした。

そして、静岡以西では正直東日本大震災のヤバさについてはあまり感じていなかったのではないだろうか。私はあまりにも陰鬱でネオンもない暗い東京がとことんイヤになってしまい、5月に入ってから大阪へ行った。

「大阪はどうでしたか?」と聞いたら「阪神大震災の時は大変やったけど、今回はあまりヤバくない」という答えだった。そして「中川さん、なんで今回大阪来たの?」と言われ「あまりにも東京のドヨーンとした空気から逃れたくて来た」と言ったら「まぁ、今日・明日と楽しんでね」と言われた。

この様子を見るに「絆」は全国的なものではなかったと思う。あくまでも帰宅難民などを経験した東京のメディアが「今こそ絆が大事です」と言い続け、それが全国に伝わったことが「絆」の受賞に繋がったのではないか。

大阪の人々の反応はまったくおかしくない。熊本地震の時、首都圏の人間はどれだけ熊本に「絆」を寄せたか? ほぼないだろう。自分が関係したから東日本大震災では「絆」を重視し、その後の西日本豪雨も含めた数々の自然災害については「絆」を言わない。

この時に私は東京のメディアの欺瞞を感じたし、今、コロナに於いて東京の状況を基に全国に自粛を求める空気を作ったことに対しても「あのよぉ、発信力あるからってお前らのケースを地方に当てはめるんじゃねーよ」と思う次第である。

⑤デマ蔓延
1986年のチェルノブイリの原発事故の後、子ども達の甲状腺がんが続出したという。そうしたことから、福島でも同様に子供達の甲状腺がんのケースが頻出した、というツイートが拡散した。

だが、これは完全にデマである。しかし、このデマを信じて多くの人が関西以西に引っ越しをした。福島県民からしたらたまったものではないが、これがデマの恐ろしさだし、このデマを信じた人間からすれば「福島にとどまることさえヤバい」と考えることだろう。

「放射線は風に乗って首都圏にもやってくる」という説を述べる者もいたため、首都圏を脱出する者も多くいた。

で、あれから10年、東京はコロナを除いては平穏ではないか。当時、テレビ番組はしきりと放射線量をガイガーカウンターで測定し「やばいです!」とやり、東京の放射線量の多さを報じた。だが、放射線は地球の至るところで存在するわけだ。

非科学的なデマをネットもメディアも巻き散らかし愚民を洗脳した。

コロナに右往左往する今、結局「情報」というものが世の中を支配するのだと感じ入る次第である。平成から令和に移ってもまったく人は進歩していない。


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