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「徳島から米国名門大へ留学する女子学生を気持ちよく応援できない日本に未来はない」という話について【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(33)
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  • 2022.06.04
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「徳島から米国名門大へ留学する女子学生を気持ちよく応援できない日本に未来はない」という話について【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(33)

2:めちゃくちゃ爽やかな人格者で努力家なアメリカ人エリートの、ゾッとするような素顔

Photo by Shutterstock

私は20年以上前に学卒でマッキンゼーというアメリカのコンサルティング会社に入ったのですが、当時のいわゆる「外資コンサル」では一定以上に出世するには「アメリカの名門大のMBA」がほぼ必須というような文化が一部に残っており、「アメリカ名門大カルチャー」を歩いているだけで全身から放射しているような人を多く見ました。

彼らは常に大変自信があるように見せているし、他人への配慮が行き届いた爽やかな人格者であろうとする気概が満ちていて、まず見た感じものすごく魅力的です。

一方でその「爽やかな笑顔」の背後で、日本人的に見ると他人をサラッと見切ってしまう感じがあるのも共通していました。

日本政府の外郭団体とアメリカの名門大学の協力による日本経済分析プロジェクトのミーティングで、アメリカ育ちの役員が、いつも以上に爽やかなニコニコ顔で、

「日本に溢れるあのしょうもない零細小売店とかがどんどん潰れたら良くなりますよアッハッハ」

…みたいなことを言っていて本気で衝撃を受けたことを今でも覚えています。

「アメリカ系のエリートの爽やかさ」の背後には、結構常にこういう「弱肉強食のネオリベ精神」が根付いているところに注意が必要なんですよね。

そうやって「見切ってしまう」精神の背後で、日本人からすると過剰な演出込みで「弱者を慮って行動する自分」を演じられるプロジェクトを次々立ち上げることの熱心さとのギャップもあって、正直“そういう風に”「弱者扱い」される人は心中あまり穏やかでないことが多いのではないかと感じます。

結果的に「アメリカ社会あるある」として、次々と「善意」のプロジェクトが立ち上がって巨額の寄付金が集まったりするけど、公立小学校の学費が学区ごとに全然違う問題といった、格差の根本原因みたいなところは放置されっぱなし。社会の辺境になればなるほど日本では考えられない絶望的なカオスが放置されてしまうことに繋がっている。

3:「アメリカ的な理想」を「日本的に地に足つける」最後の一歩にもっと工夫が必要

私は「アメリカの理想主義」自体は大好きなんですが、その「実行面」においてかなり問題を抱えている社会なのも明らかに事実で、日本にそれを「無理やり同じように」導入しようとすると日本社会が自分たちの美点を守るためのアレルギー反応のようなものが起きると感じています。

それを無理強いしていると、いずれ「アメリカ的な理想」そのものに対するアンチ的ムーブメントが高まってくるのを止められなくなる。

今の日本に必要なのは、「アメリカ的な理想」を「日本社会と無理なくすり合わせるための独自の工夫の積み重ね」なんですよ。

「松本さんへのアンチ的なムーブメント」に対して「閉鎖的な日本のクズどもがわめいて、若い女性の可能性を潰している」的に怒りを表明しているタイプの人(こういう意見が今何百と“いいね”されて拡散されていますが)は、「そこであと一歩踏み込んだ工夫」について考えてほしい。

そこで対応を誤ると、日本社会もまた、アメリカのように「ありとあらゆるリベラルの理想を全部潰してやる!」と激昂し、国会議事堂に暴力で乱入するような勢力を止められなくなる可能性を孕んでいるからです。

4:「9割の知的な仕切り」と「1割の現場の事情の吸い上げ」が大事

とはいえそんなことを言うと、「あんなクズどもの話を聞いていたら社会を変えることなんてできないじゃないか!」と怒ってくる人が結構います。

しかし、国全体が真っ二つになって永久に邪魔され続け、妊娠中絶が禁止されるようなムーブメントに怯え続けなくてはならなくなるより、最初に丁寧に「皆のためのことなのだ」と合意を作ってから協力関係のもとに粛々と変えていく方が、最終的にはスムーズなはずです。

私は、「こういうアメリカ的な手法だけでゴリ押ししてると社会が真っ二つに割れてそのうち大変なことになっちゃう(実際に20年経った今のアメリカはそうなってますよね)」と思い、メンタルを病んだこともあってマッキンゼー社を退職したあと、その「分断される二つの世界」を繋ぎ止める方法について考える仕事を続けてきました。

具体的には、まずブラック企業やカルト宗教団体や、時にはホストクラブのような「エリート社会の逆側」の世界を身を以て理解するために潜入して実際に一員として働いてみるフィールドワークをやりました。そのあと、「グローバルとローカルの境目」である日本の中小企業相手のコンサルティングをしてきました(話せば長いのでご興味のある方はこちらのプロフィールをどうぞ)。

その中小企業クライアントの中には、ここ10年で平均給与を150万円ほど上げることができた成功例もあります。

そういう「アメリカ的グローバルな理想」と「日本社会のリアル」を繋ぐ実地の工夫を20年考えてきて思うことですが、

ぶっちゃけて言えば物事の9割ぐらいまで、“知的エリート側”が考えたことを実行したほうが良いことが多い

…と思っています(笑)。

しかし大事なのは「残りの1割」の部分なんですよ。

その「残りの1割」の部分で、「現場側」からすると全然問題が違ってくる…というような領域でのすり合わせの必要性があるんですが、アメリカ型エリートはここの部分に無頓着すぎるので、無理やりゴリ押ししては全力のバックラッシュに怯え続ける社会になってしまう。

その「残りの1割」とは、以下の2点のような形を取ることが多いです。

・実際に行う改革内容の細部において、どちらも合理的に見える案Aと案Bのどちらを選ぶのか?というレベルの話

・その「改革内容」を、ローカル側の人員にとって「自分ごと」として捉えてもらえるような持って行き方(意地悪く言えば“演出”)の問題

今の「アメリカ型の社会の仕切り」はこの「残り1割の部分のローカル側とのすり合わせ」を全拒否しているので、分断も酷いことになっているし、その「理想」を押し付けられたと感じる世界の多くの国で、むしろアメリカ型の理想ごと捨て去ってしまうようなムーブメントが止められなくなりつつある。

「アメリカ型の理想」が捨て去られずに、人類の2割以下の上澄み特権階級にすぎない欧米社会の「外側」でもちゃんと地に足ついて運用されるように持っていくためには、「最後の一歩(ラストワンマイル)」の部分で今よりももっと圧倒的な「双方向的な対話と配慮」が必要な時代になってきているのです。

次ページ 5:アメリカ由来の「2つの改革」は、「最後の一歩のすり合わせ」を必要としている

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