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サービスのライバルは睡眠や入浴?だからこそ必要とされる「“プレ”ユーザー設計」と「融けるデザイン」
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  • 2023.07.24
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サービスのライバルは睡眠や入浴?だからこそ必要とされる「“プレ”ユーザー設計」と「融けるデザイン」

「可処分時間の奪い合い」という言葉が使われるようになって久しい。いかにしてユーザーからの支持を得て、時間を注ぎ込んでもらうかこそ、サービス・コンテンツ設計者にとっての最優先事項となった。しかし、「ユーザーに利用してもらう時間」よりも「利用していない時間」にこそ注目すべき、という考え方もあるようだ。どういうことだろうか?

本記事は2015年1月25日に刊行された、渡邊恵太『融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』(株式会社ビー・エヌ・エヌ新社)の内容を一部抜粋・再編集したものだ。

渡邊恵太

明治大学総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 准教授。博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。シードルインタラクションデザイン株式会社代表取締役社長。知覚や身体性を活かしたインターフェイスデザインやネットを前提としたインタラクション手法の研究開発。近著に『融けるデザイン ハードxソフトxネットの時代の新たな設計論 』(BNN新社、2015)。

プレユーザー

それにしても、「ユーザー」とは都合の良い言葉だ。設計者はパソコンやサービスを利用する人のことを「ユーザー」と言うが、そのユーザーというのはたとえばデジタルカメラを例にすると、デジカメを使っている最中の状態の人なのか、それとも買ってきて所有している状態の人もユーザーなのか、あるいはどちらもなのだろうか。その考え方はかなり曖昧だ。

つまり人の「使う」は、グラーデーションなのだ。たとえば、1.デジカメを買って、家に置いてある。2.鞄にいれて持ち歩く。3.デジカメを構えて写真を撮る。といったように、わかりやすいレベルでの「使う」はこのように分けられる。ユーザーインターフェイスの設計は、ほとんど3を対象としている。もちろん3の「使っている最中」が人のモチベーションは最も高いため、使いやすくなくてはユーザーにとっての不満が顕著に現れやすいが、3の意味でのユーザーになる時間は実は1、2に比べれば短い。この1、2の状態を、筆者は「プレユーザー」と呼んでいる。そしてプレユーザーインターフェイスという設計のあり方が導入できるのではないかと考えている。

デジカメのプレユーザーということを具体的に考えてみよう。プレユーザーに対するデジカメのあり方としては、バッテリーなどの問題をクリアできれば、フォトスタンドになるべきかもしれないし、出かける際に持って行ってほしいことをアピールするようなインタラクションもあっていいかもしれない。鞄の中でデジカメが位置情報に基づき「このあたりは多くの人が写真を撮っている」ことを知らせてくれて、プレユーザーに撮影を促すのもいいかもしれない。このように、自分が設計したり開発したものを利用している最中以外、プレユーザーである状態に何かできることや意義がないかを探ることは、製品やサービスの価値の最大化をするうえでも大切だ。

制約が生み出す非拘束性

パラレルインタラクションの時代の製品やサービスには「配慮」が必要だ。望まずに拘束性が高いものは嫌われる。Twitterの成功は、こういった配慮が効いていたからではないだろうか。かつてブログは個人メディアの代表だったこともあったが、全員がまとまった記事を書くほど発信したいとは思っていないし、時間もないわけだ。しかしTwitterは、メタファがなく説明がつかないものでありながらも大きな成功を収めた。これは140文字という「制限」があったからではないだろうか。つまりTwitterのサービスのあり方は、人々の生活を中心としつつ分散的であることを前提として、人を拘束しないように配慮されたメディアだったということだ。

人が特定の場所に行かなければならないとか、特定時間集中してもらわなければならないとか、そういったことは人の拘束につながる。映画は2時間というのは当たり前かもしれないが、それは映画館で上映するというビジネスのうえで成り立つものである。そういったスタイルがなくなるわけではないにしても、これまでは私たちがコンテンツやメディアの持つ特性に物理的にも時間的にも合わせてきたのだ。もちろん自らの意思で観たいから、体験したいからそうしているわけだが、限られた人生の中で増え続ける情報、コンテンツ、コミュニケーションとどう接するかを考えれば、時間という基準もコンテンツを選ぶ価値のひとつになることは間違いないだろう。

その製品やサービスはユーザーの時間をどう使うのか

ユーザーは製品やサービスを使いたくて使っているといっても、インタラクション設計においては、製品自体がユーザーの時間を奪ってしまうものとして設計するべきである。そして奪い方によっては、ユーザーに受け入れられないということをよく考えておくべきである。すなわち、あなたが設計している製品やサービスは、ユーザーの時間をどう使うのか、どう奪うのか、という視点を持つべきである。そしてここに「デザイン」があることを考えるべきである。

たとえばCastOvenでは、ユーザーの時間の隙間となっている待ち時間のほうに合わせてコンテンツを選ぶという方法をとった。これはメディアの形式に人が合わせるのではなく、コンテンツを人の普段の行いの中に合わせるという方法なのである。

「あなたのサービスはユーザーの生活のごく一部でしかない」ことを肝に銘じながら設計することが重要だ。ライバルは他のサービスやアプリケーションだけではない。人々の朝食時間や入浴時間、睡眠時間ですらあなたのサービスのライバルであり、同時にうまく共生していかなければならない巨大なプラットフォームなのだ。だから、「融けるデザイン」が必要なのである。


渡邊恵太『融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』(ビー・エヌ・エヌ新社)

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