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年間300回以上のABテストを実施するエイチームが明かす、成功するWebサイト改善と組織づくりのポイント
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  • 2023.08.17
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年間300回以上のABテストを実施するエイチームが明かす、成功するWebサイト改善と組織づくりのポイント

ウェブサイト、ECサイト、アプリなどの顧客体験を分析するサービスを提供するContentsquare(コンテンツスクエア)は、デジタル顧客体験(CX)の最適化に取り組む実践者たちが登壇するカンファレンス「CX Cicrle Tokyo 2023」を2023年6月に開催した。

本イベントにはAIからデジタルアクセシビリティ、検証まで、CX(顧客体験)戦略やイノベーションに焦点を当て、業界トップクラスのスピーカーが多数登壇した。

FINDERSでは去年11月に行われた「CX Cicrle Tokyo 2022」の書き起こし記事も掲載しており、今回もContentsquare Japanから記事提供をいただき掲載する(本記事は全8回中の3回目。記事一覧はこちら)。

本記事では、引っ越し予約・比較サイトの「引越し侍」、結婚式場検索サイトの「ハナユメ」など生活関連の情報サイトを多 数運営する、エイチームライフデザインの木村佳史氏が、具体的なサイトの改善施策や、職種の垣根を越えてサービスの提供価値を考えられるチームづくりのノウハウについて語った。

なお「CX Cicrle Tokyo 2023」の模様は無料配信されており、登録をすれば視聴が可能。視聴登録はこちらから

「一人ひとりの、暮らしの『まよい』を『よかった』に。」

エイチームは、大きく分けて3つのビジネスの柱を持っています。1つ目はエンターテインメント事業で、スマートフォンアプリのゲームを提供しています。2つ目はライフスタイルサポート事業です。どのような商品を購入すべきか悩んでいるユーザーと、何か商品を提供したいと考えている事業者をマッチングしています。3つ目はEC事業です。これら3つの事業をホールディングスが統括しています。

全事業共通の経営理念は「みんなで幸せになれる会社にすること」「今から100年続く会社にすること」です。私が所属しているエイチームライフデザインでは、「一人ひとりの、暮らしの『まよい』を『よかった』に。」をミッションとして掲げていて、そのようなサービスを提供できるよう、メディア事業を展開しているところです。

サイト改善を成功に導くために、社内で共通言語と共通認識を持つ

その中の一つで、クレジットカードや住宅ローン、電気・ガスなど生活にまつわるさまざまな情報を調べて選択肢を比較できる「イーデス」というサービスで、私は年間で366回のABテストを実施してサイト改善に取り組んできました。そのうち、約120回のサイト改善プロジェクトでの勝率は平均67.6%でした。負けたものを含めても、平均130%弱のコンバージョン率アップを果たしました。手前味噌になりますが、かなりの成果を残しています。本日は、サイト改善のために「明日からすぐにできること」を紹介します。

エイチームが一番大事にしていることは、「共通言語と共通認識」です。これだけを聞くと、多くの方が「うちもやっているよ」と思うに違いありません。しかし、一歩踏み込んで、エイチームが取り組んでいる、少し深い共通言語と共通認識について事例を挙げます。

実は、サイト改善において特別なことはしていません。PDCAのサイクル自体はシンプルです。社内の皆でアイデアを出し合い、内容を決めたら開発・実装をして、その評価を振り返りながら、新たなアイデアを出す。多くの会社が同じようなサイクルを回していると思います。ただ、私たちは「皆で」をとても大事にしています。

サイト改善においては、独立したチームを設けて改善に取り組む会社は少ないでしょう。部署横断で取り組む会社が多いように思います。例えばエイチームでは、サイトの運営においてマーケター、営業、サイトをつくるためのデザイナー、バックエンドをつくるウェブエンジニアの4つの職種が関わっています。この4つの職種全てが集まって改善のためのアイデア出しをします。一般的にはマーケターが商品を考えて、デザイナーがUIを考える、といった役割分担をすることが多いですが、エイチームでは「皆でアイデアを出すこと」に重きを置いています。

ABテストを効果的に進めるPDCAの3つのコツ

PDCAサイクルを回すポイントを、3つ紹介します。1つ目は、AAテストを行うこと。2つ目は、「成果を出すためのABテスト」と「知るためのABテスト」を分けること。3つ目は、自分たちで体験/体感することです。

まずは、あまり知られていないAAテストについて紹介します。ABテストでは、別々のオリジナルとチャレンジャーの勝敗を測ります。一方、AAテストでは、全く同じオリジナルに対して、全く同じチャレンジャーを対抗させます。これにより、どのぐらいの母数があれば優位性を測れるのかが分かります。

例えば、ABテストで勝負をしているときに、オリジナルとチャレンジャーのn数が、それぞれ10しかなかったとします。「今オリジナルが負けていて、チャレンジャーが勝っているので、チャレンジャーに統合しよう」と判断するには、母数が少なすぎて分析は難しいですよね。n=10で少ないとしたら、母数がいくつあれば判断ができるようになるのか。その基準を測るのがAAテストです。

私たちも、定期的にAAテストを行います。同じサイトで、同じ見た目で、同じ機能にもかかわらず、同じオリジナルとチャレンジャーでコンバージョン率が10%変わることは多々あります。AAテストを行うことで「この期間に、このn数であれば、ブレの範囲はこのくらいだ」と分かるようになります。自分たちの環境における、ブレの許容範囲を把握できるということです。今まで、ABテストでチャレンジャーとして勝ったと判断していた内容が実はブレの範囲であり、正確な結果を得られていないかもしれません。中長期的には負けているはずのチャレンジャーを統合してしまっていないか、AAテストで判断しましょう。

2つ目のポイントは、「成果を出すためのABテストと知るためのABテストを分ける」ことです。

上図のポップアップ画面は、私たちが運営している「イーデス」の住宅ローンコンテンツにランディングした際に表示されます。例えば、実店舗で住宅ローンの相談をするのであれば、個々のニーズに合った詳細な提案ができます。しかしデジタルでは、ユーザーの属性やモチベーションが分かりません。そこで、住宅ローンの契約が初めてのユーザーには、買う家は決まっているのかどうか、住宅ローンを既に契約中のユーザーには、借り換え検討をしているのか、といった質問で振り分けをします。すると、「住宅ローン」というキーワードから流入したユーザーのニーズと割合が分かります。

つまり、これは「知るためのABテスト」です。サイト改善をして成果を出すためには、まずユーザーを理解する必要があります。成果を出すためのABテストと知るためのABテストは分けるようにしましょう。

Contentsquareを導入して以降、「セッションリプレイ」機能を使ってユーザー行動の録画データを頻繁に観察しています(※)。社内の皆でサイトの改善案を考えるため、ユーザー行動の動画をZoomに映しながらランチミーティングをしたり、オフィスに集まってモニターに映したりしています。録画データを基に、なぜユーザーはこのような動きをしたのだろうかと話し合います。また、実際に利用したことのあるユーザーに、良かった点や悪かった点、どのような機能があれば使いやすいかなどのインタビューを実施しています。

自分たちで体感するという点では、社員が実際にユーザーとなって、サイトの体験をしています。社員全員で住宅ローンを組むことは難しいですが、クレジットカードの申し込みを体験することくらいはできます。自分がユーザーとなったときに、どのような検索行動をするのか、サイト経験をするのか。体感したことを次のアイデアを出すヒントにしています。 

※Contentsquareのセッションリプレイとは、デジタル接点における来訪者の行動(マウスや指の動きなど)を細かく記録しておき、そのデータを基に再現した動作を画面に重ね書きすることで、あたかもユーザー行動を録画したかのように再構築して可視化する機能

ウェブサイトの改善に必要な組織づくり

次に、このような改善を進めていく上でのエイチームの組織づくりについてお話しします。ポイントは大きく分けて3つです。1つ目は、情報を揃えること。2つ目は、メンバーの育成をすること。3つ目は、組織を一枚岩にすることです。

まず、多くの企業でKPIを揃えて目標にするといった取り組みはなされていると思います。しかし、エイチームにおける「情報を揃える」というのは、一緒の情報と熱量を持つことを意味しています。そのために、自分たちのサービスが「世の中でどのような価値を発揮するのか、それによってどのような世の中をつくりたいのか」を問うようにしています。

例えば、「1カ月間でコンバージョン率を120%にしよう」といった定量的な指標を設定するケースがあるとします。しかし、それぞれのサービスに携わっているメンバーが「売上が伸びればいい」「件数が伸びればいい」「CPA(顧客獲得単価)が下がればいい」といった熱量で情報を揃えても良い結果は生まれません。私たちは、数字だけではなく、「このサービスを通じて何がしたいのか」をそれぞれのチームが同じ熱量を持って話せるような組織づくりに注力しています。

次のポイントは、メンバーの育成です。人材は一朝一夕では育ちません。エイチームには、サイト改善で成果を出すノウハウがあります。しかし、技術的なノウハウがあっても、それに取り組むメンバーの育成には、半年から1年がかかります。育成方法には改善の余地があるのかもしれませんが、社員としっかりと向き合いながら、話し合っていくしかないと考えています。

最後に、組織を一枚岩にするために、対話を重ねることを大切にしています。例えば、サイト改善をしようと試みたものの、1カ月かけても成果が出ない場合があります。そういったときに、あまり怒ることはしません。経営理念にあるように、「みんなで幸せになれる会社、今から100年続く会社」であるために、サービスに関わる多様な価値観を大事にしたいからです。アイデア出しのときに、チープに思える意見が出たとしても、そのアイデアの問題を指摘するのではなく、なぜそう思ったのか対話を重ねるようにしています。その人が、どうしてその価値観を持っているのかを理解することが人材育成につながりますし、価値観の多様性の尊重にも通じると考えています。

サイトを改善しようとするとき、ただコンバージョン率を上げようとするのではなく、そのサービスが世の中に何を提供して、どのように価値を発揮するのかという視点で考えてみてください。マーケター、営業、デザイナー、エンジニアの壁を無くし、サイトにそれぞれが所有感を抱き、「自分たちのつくったサイト」が世の中に与える価値を考えられるように、社内で共通言語と共通認識をつくりましょう。


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