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広告で「枕営業」という言葉を使うと炎上するのか?コピーライターが考えたこと
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  • 2023.10.06
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広告で「枕営業」という言葉を使うと炎上するのか?コピーライターが考えたこと

コピーライターのはせがわてつじです。

職業柄いろんな言葉に興味がわくのですが、この連載ではいろいろな意味で「残念だなと思った言葉」をピックアップして考えていきます。

はせがわ てつじ
リクルート、無職、面白法人カヤックを経て、2016年1月に株式会社コピーライターを設立。カヤック、エードット(現Birdman)などを言葉の力で上場に導く。現在、株式会社コピーライターとコピーライターサークル「コピサー」の代表を務める。主な仕事『悪魔のおにぎり(ローソン)』『噂通り(広島県可部町)』『打ち上げより、 打ち合わせが 面白い会社です。(カヤック)』など。 

「ジョークですよ」と言いながら、本気で語る人がいる。

コピーライターをしていると、お会いする方に「はせがわさんの書いたこのコピーが好き」とよく言われることがあるのですが、いちばんよくあげられるのが、下の男性用アダルトグッズのコピーです。

愛やエッチよりまえに、自慰がある。

「自慰」という言葉をあらためて見てみるとなんだか不思議な気持ちになりませんか?

この言葉の名づけた人をコピーライターと言ってもよいと思いますが、彼または彼女は、この行為を「自ら慰める」行為だと思ったからそう名づけたのだと思います。言葉を名づけるときは、その人の考えや思い込みがつい出てしまうものです。自ら癒す「自癒」や、自ら励ます「自励」や、自ら楽しむ「自楽」でもよかったわけですが、「自ら慰める」がいちばんしっくり来たのでしょう。でも慰めるってなんか残念な感じがします。こんな言葉を「残念な言葉」と定義して語っていきたいと思います。

男性用のアダルトグッズのコピーで、他にもこんなコピーを書きました。

ジョークグッズですが、
本気でつくってます。

これは、製品のパッケージの裏の注意書き(下の文)を見て思いつきました。

本品はジョーク商品ですので、その他の目的でご使用された場合の責任は一切負いません。

いろいろなルールやリスク回避から「ジョーク商品(グッズ)」と書かないといけないので、書いているのだと思いますが、商品をまじめにつくってる人は、決してジョークでつくってるとは思ってないはず。自分が必死こいてつくった製品に「ジョーク」という残念な言葉を入れるのはかわいそうです。せめてそのきもちをコピーにできたらなと思いました。

「枕営業」じゃなくて「性果報酬」じゃない?

「マスターベーション」と「枕営業」で韻が踏めることに気づいてしまいましたが、さいきん枕営業という言葉をコピーで使いました。コピーライターは言葉に対して「いいな〜」とか「残念だな〜」と、ツッコミを入れてしまう職業なのですが、そのツッコミをそのままコピーにするというやり方です。

【枕営業】という言葉がなくなりますように。
睡眠・快眠グッズの通販サイトで、枕もつくるネルチャーと申します。 
寝言ではなく、まじめに思っていることを述べさせてください。
【枕詞】や【枕木】など、枕を入れた言葉はいろいろありますが、
【枕営業】は、枕メーカーの私たちにとって無視できない言葉です。 
その言葉を耳にすると、「枕をそういう意味で使われるのはちょっと...」
「いや、私たちも枕の営業をしてるんだけど...」などと複雑な気持ちになります。 
仕方のない面もあるかもですが、この言葉に永眠してほしいのが本心です。
きっと、枕に関わる仕事をしているすべての人が願っていることだと思います。
この広告を見たあなたが【枕営業】という言葉を見かけたとき、
「枕メーカーの人がどう思うか?」想いをめぐらせていただけたら、うれしいです。

ある言葉を見かけたとき、ほとんどの人は「自分がどう思うか?」しか考えないと思いますが、ぼくの場合「この言葉を見ていちばん悲しむのは誰か?」を必ず考えます。コピーを見てキズつく人がいないかチェックするのはあたりまえですが、言葉に対するツッコミがそのまま広告にできるというのは、発見でした。

ちなみに別のコピー案として、こんなのもありました。

枕営業という言葉をつくった人へ。考えたのは、江戸時代に生きていたコピーライターでしょうか。このコピーを書いてるコピーライターの私は"肉体営業"か"性果報酬"のほうがよいと思います。というものですが、これは媒体側から助言がありボツになりました。

商品名を聞いて、最初に連想する言葉で企画をつくってみる

この企画の発想の仕方ですが、枕の入った単語で「枕営業」とか「枕草子」などを思いついたので、それを何かの企画にできないか考えました。

クライアントが売りたい商品とは何とか、課題は何かとかいろいろあると思いますが、それらはいったん置いといて、最初に連想する言葉を企画にすれば、わかりやすい企画になります。

たとえば、カーテンメーカーから仕事が来たら「鉄のカーテン」という単語を連想するは多いと思います。そこから、本当に鉄のカーテンをつくって販売したらどうだろう?と考えます。鉄のカーテンは売れないと思いますが、鉄の成分が入っていて消臭効果がある新しいカーテンを販売するのはどうでしょう。……と流れで説明したら、成立するかもしれません。

「ネガティブな単語を使ったら炎上しませんか…?」

どんな言葉でも「ある単語が入っているから」と文脈も踏まえず問題視するというのは、ちょっとした思考停止なのではないかと思っています。たとえば、まちがった日本語を広告で使うのはどう考えてもおかしいと思うかもしれませんが、「まちがった日本語を指摘するための語学学校の広告」であれば、まちがった日本語をあえて大きなコピーとして出す、という方法も考えられます。

今回の広告は枕営業を肯定するものではないですし、枕営業という言葉に対する抗議、いわば抗告という広告。広告が炎上する原因で多いのは、無意識に人をキズつけていたり、思い込みをもとにつくられていたりする場合です。今回の広告のコピーでは、そこを考慮してつくっていたので、想定していない声は寄せられませんでした。

そして、広告をつくるときによく思うのですが、炎上も怖いですが、無視されて無風で終わるのも怖いです。無難で誰の心にも残らない広告になるのであれば、出さなくていいと思います。

…みたいなことを、広告主であり依頼主であるクライアントさんに誠意をもって納得してもらうまで説明しつづけるのも、ぼくの仕事です。

残念なお知らせ、待ってます。

もしみなさんが残念だと思う言葉、気になった言葉があれば、残念な言葉辞典に入れさせていただくので、XでDMをください

(Xも残念な言葉になってしまうのか…!?)

また、この連載「残念な言葉辞典」はいずれ書籍化したいと思っているので出版社の方も気になったら声をかけてください。

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