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「日本のコロナ対策が成功した理由」は何か。専門知と現場知の融合から見えてくる希望【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(5)
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  • 2020.05.28
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「日本のコロナ対策が成功した理由」は何か。専門知と現場知の融合から見えてくる希望【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(5)

6:「狭義の科学」と「現場の知恵」の間のラグを「信頼」で繋ぐことは、特に自由主義世界で大事なことなはず

「狭義の科学的明晰性」が隅々まで行き渡っているような対策っていうのは、実際に実行に移すとなると強力な中央集権的主体が必要になるんですよね。

さっきの「借金のたとえ」で言うなら、100円単位のコンビニの買い物まで全部家計簿に転記しなくちゃいけなくなると、日本で言うところの「地方都市」ぐらいのサイズのニュージーランドみたいな国とか、中華文明圏(+韓国)みたいに「政府」が個人を管理する強烈な権限がある国じゃないと絵に描いたモチになってしまう。

ちゃんと全員検査して、ちゃんと全員追跡して、ちゃんと全員隔離する…とかしなくちゃいけない。こないだ韓国で、政府から義務付けられた自己隔離を守らず外出した日本人が逮捕されていましたが、それぐらいの厳しさが必要になってしまう。

日本みたいにマイナンバーですら果てしなく抵抗されて骨抜きになった国じゃあちゃんと実行できません。ましてや欧米社会でも難しいのではないでしょうか。

しかし、「ざっくりした傾向性」を捉えて、多彩な方策で確率を削っていくことなら、自由主義社会にも可能なはず。

最近の日本のゲームだと、バカでかい「敵ボスキャラ」に対してよってたかってプレイヤーがタコ殴りにして「チマチマとダメージを与えて削っていく」シーンってよくあるじゃないですか。

結局、「R(再生算数)というモンスター」がいて、それに対して多彩な攻撃を各人ができる範囲で勝手にバラバラにしかけていって「確率」を削っていけばいいわけですよね?

・勇者●●は、帰宅後手洗いとうがいを実行した!Rに対して0.00…1%のダメージ!
・専門家会議は、 “クラスター対策”をはなった!全国の保健所がクラスターの連鎖をおさえこむ!!!Rに対して0.5%のダメージ!
・●●株式会社は、テレワークを導入した!Rに対して0.00…1%のダメージ! 
・志村けん氏はメガンテを唱えた!日本人への強烈な啓発効果でRを抑え込む!!! 

(ちょっと最後の一行が不謹慎すぎるかもですが、彼の訃報以降日本人の警戒意識が大きくあがった…ということは各種調査でも示されています。ご冥福をお祈りします)

入れている%の数字は適当ですが、上記みたいな感じで、「勇者の挑戦」とか「さらに闘う者たち」的なBGMとともに、

人それぞれ出来る範囲で勝手にバラバラにローコストでできることをやって、「チマチマチマチマ確率を削っていく」ことで、R<1状態に持っていきさえすればいいのだ

…という理解ならば、プライバシーに対する政府管理が嫌がられる自由主義社会でも、なんとか可能なモデル…ということになるのではないでしょうか。

要するに「アカデミックな視点」と「現場」の間に一切ラグ(すきま)がない政策は、強烈な中央集権が必要になるけれども、「アカデミックな視点」と「現場レベルの人間」との間に信頼関係があって、「各人が勝手にできる範囲でチマチマと確率を削っていく」方法であれば、自由主義社会にも活用可能なはずだ…ってことです。

そしてそこにこそ、「トランプVS反トランプ」的な欧米文明の袋小路を超える希望として、私たち日本人が提示していくべき希望の旗印もまた、あるわけです。

まとめ

今後、日本の対策が「なぜ」うまく行ったのか…は党派性を離れて冷静に検証が必要です。第2波が来た時に「もっとうまくやる」ためにもね。

しかし、世界観全体が「狭義の科学的視点」に偏って、いわゆる銀の弾丸(それさえやればいい的なシングルイシュー型のモノの見方からの解決策)的なものを探し求めても、それを実行できるのは強烈な中央集権が可能な国か、日本でいうと地方都市サイズの小国だけに限られるでしょう。

アベ政権の説明が悪い…ってのは確かにあるんですが、先程も述べたようにこれは「知的能力」というより「パラダイム」の問題なので、そもそもパラダイムが共有されていない相手にちゃんと説明するのは本当に難しいことなんですよ。

だからこそ私たち日本人は、自分たちのオリジナリティのコアにあるものが、トランプVS反トランプ的な欧米文明の行き止まりにおいて、あるいはとめどない米中冷戦のような時代背景において、今後重要な希望になってくるというストーリーを、ちゃんと共有して、「普遍的な論理」で語れるようになっていかねばなりません。

なぜなら、「普遍的な論理の延長でそれを語れる」ようにならないと、「ここは日本だ黙ってろ!」的な閉鎖的な高圧さで自分たちの美点を守り続けるしかなくなってしまうからです。

コロナ対策に関する初期の海外報道を見ていると、「とにかく日本を徹底的に否定したくて仕方ないタイプの英語が達者な日本人」があることないことを吹き込み、そしてそれが有名メディアでもちゃんと現地語(日本語)情報で検証したりされずにそのまま報道されたりしがちなために、相当歪んだ像になっていることも多いことが、今回白日のもとにさらされたところはあると思います。

PCR検査に関して私がまとめた第2回の記事は、フェイスブックのお医者さんとかにシェアされ続けて、最後には英語のコメントもチラホラ来るようになりました。

もちろん私だけじゃなくて、“党派争い”から距離をおいて物事が見られるタイプの多くの日本人が粘り強く発信したことで、徐々に海外メディアの論調も「中立的で冷静な」ものになっていったと思います。

中でも、精力的に英語で発信され、私の記事よりももっともっと大きな影響を持ったと思われる北海道大学の鈴木一人教授は最近ツイッターで、以下のように述べておられました。

さっきも書きましたが、欧米人はこの世界を「一様なもの」として考えすぎるところがあり、非欧米人でも特に日本人は「すべての個別性を特殊なものと考えすぎる」ところがあると思います。

そして「欧米人があまりにも世界を一様に考えすぎる」ために、「非欧米社会」において、また欧米社会内においても反トランプ主義のような形で、「対立」が表面化しているのだと考えてみましょう。

米中対立が激しくなっている現代においては、この「それぞれのローカルな事情ってのがちゃんとあるのだ」という理解を、ちゃんと「普遍的な論理」ですくい上げていく作業が、今後ますます大事になっていくでしょう。

「ローカルな事情を理解せずに、欧米的な先入観を非欧米社会に当てはめてジャッジする」論調が大きすぎるから、逆に排外主義的なことを強烈に主張して閉鎖的な場を維持しようとするモメンタムも起きるのであって、その両者は表裏一体なのだと私は考えています。

大事なのは、第2回の記事で書いた私のクライアントが「ポイントカードをアプリにした」話のように、

ちゃんと「ローカルの事情」を深く理解して、普遍的な論理ですくい上げる「あたらしい意識高い系」と私が呼んでいる態度です。

もし「閉鎖的で高圧的」な、「日本は特殊なんだ」という論調が止めようもなく盛り上がってきたとしたら、それは私たちが「普遍的な論理」だと思っている考え方がまだ大雑把すぎて、ちゃんと「ローカルな事情」をすくいあげられていないことが原因なのだ…と反省する契機にするようにしましょう。

次回連載では、「米中対立の時代に私たち日本人にできること」というテーマになる予定ですが、経済のアジアシフトによって欧米文明の相対化が起きる時代において、「それでも欧米的な普遍的理想」を人類が失わずにいるために、私たち日本人が自分たちのオリジナリティに目覚めて提示していくべき希望の旗印とは何か…について書きます。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう。連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。

SNSで話題の時事ネタや、読んだ本や漫画の感想、その他いろんなことを、ウェブ連載よりももっと頻繁に読者のみなさんとシェアしたいと考え、メルマガをはじめました。

いろいろな雑談的話題も含めながら、「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を共有し、あなたの人生を別の視点から見直して今までにない希望を感じていただける記事を書いていこうと思っています。

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また、この記事への感想など、聞かせていただければと思います。私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターに話しかけていただければと。


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