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- 2020.11.07
「トランプが負けたら世界は中国に支配される」は本当か?「民主主義だってダメじゃん」をギリギリ回避するための日本的中庸思考【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(8)
2:上院・下院・大統領の「トリプルブルー」にはならなかったことに注目するべき
たとえば、アメリカ大統領選挙の結果を見る上で、同時に行われる上院下院選挙の結果と「合わせて」理解することが、政治力学的には非常に重要だそうです。
大統領が民主党(今回はバイデン)になった上で、上院下院の両方を民主党が押さえる…ことを「トリプルブルー」と言うそうですが、今回は上院がレッド(共和党優位)のままで終わる情勢です。
ここで「球体に丸めたイデオロギー的理解」しかできない人間だと
そりゃあネジレ国会で混乱して何も進まなくなっちゃうだろうな! やっぱりいけすかない都会のインテリどもが虐げられた白人労働者の気持ちをちゃんと汲んでやらないからダメなんだよ!
…みたいな結論に飛びつきがちなんですが、渡瀬裕哉さんに限らずいろんな「米国政治のプロ」が言っていたのは、
今回あまりにも圧勝して安定的なトリプルブルーになってしまうと、バイデン民主党政権において最大の問題は党内の極左勢力を押さえる力がなくなってしまうこと
だという話でした。
むしろ上院が共和党に握られていることで、「党内極左勢力の暴走」を抑えつつ、「トランプ時代の良くないところ」は全国民的合意として実行していく流れも可能になりうるという話で。
時代の流れで、企業や大富豪と言った大口献金者からでなく、「ネット経由で一口3000円ぐらいの献金を何千万人から」集める時代になったことで、昨今の米国政治は「両極化したネット世論」に左右されやすくなっています。
要するに「ネット右翼」「ネット左翼」さんの集団がそれぞれの党に直接影響力を持ちつつあるわけですね。
昨今サンダース氏やAOC(アレクサンドラ・オカシオ・コルテスさん)といった「急進的な左派グループ」が民主党内では台頭していて、そのグループとバイデン氏などの「民主党の主流派」との対立は年々厳しくなっています。
「サンダース派」と「民主党主流派」は今回の選挙に関しては「敵の敵は味方」的に協力しあう事になっていますが、もし「トランプ派」を完膚なきまでに叩き潰してしまった選挙結果になれば、むしろこの「極左VS穏健左派」の対立こそがアメリカ政治の最大の問題になってくるでしょう。
ちなみに私は「サンダース派」の言っていることの半分ぐらいには賛成という人間ではあります。世界一の先進国を名乗るなら国民皆保険ぐらいやりなよ…という気持ちはある。
しかし、現状は「挑戦者」だから許されていた非妥協的な態度を、これから「実際に権力を持った」時に柔軟に変えることができるのか?というのは非常に疑問に思っています。
トランプ派(と言われると否定するかもしれないが一応トランプに今回投票した層)には「左派の過激主義についていけない」という程度の穏健主義者も結構含まれています。「サンダース勢力」のエネルギーは、時にトランプ派をすら凌駕する「決して妥協しない純粋志向」になりえる危うさを秘めているからです。
実際、アメリカが現状一応は世界一の経済を実現しているパワーの大部分は資本主義のダイナミズムにあるわけなので、「その現実」を否定するほどの極左勢力の暴走を抑えられなくなると、結局「誰のためにもならない」結果になるでしょう。
逆に言えば「極左のエネルギー」を“適度にいなしつつ”中道派がうまく吸い上げられる状況になれば、人類社会全体として「ちゃんと理想が実現していく良い仕組み」が実現できると言えるでしょう。
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