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「人権か中国市場か」ウイグル問題に揺れるユニクロやアシックスはどんな態度で臨むべきか【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(16)
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  • 2021.04.16
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「人権か中国市場か」ウイグル問題に揺れるユニクロやアシックスはどんな態度で臨むべきか【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(16)

3:中国人や「中国シンパシーを持つ世界中の人」も納得できる姿勢を示さねば禍根が残る

この連載でも何回も書いていることですが、ある「世界街角インタビュー」的なYouTube動画を見ていたら、若いタイ人の大学生が流暢な英語で、

「アメリカみたいな民主制がいいのか、中国みたいなシステムがいいのか、どちらにも長所と短所があるのでそれぞれの国が自分たちの実情や発展段階に応じて選ぶことが大事ですね」

と、まるでスマホをiPhoneにするかAndroidにするか…みたいな気軽な調子で話していたのが衝撃的でした。

「日本語が話せる中国人」のSNSの発言を見ていても、日本のアニメなどが好きで日常的な会話においては非常に現代的なセンスを持っているように見える若い人でも、こういう話題に関しては「欧米的なやり方に対する無条件の尊重心」のようなものは全然ない世代が増えてきています。

「欧米メディアの一方的な報道」に相乗りする格好でただ批判するだけだと、こういう世界中の「中国にシンパシーを持った人たち(あるいは欧米の高圧的な態度に嫌悪感を持っている人たち)」まで全部中国側に回ってしまう危険性があるわけですよね。

しかし、先程の毎日新聞の米村氏や東大の丸川氏の記事のような内容を丁寧に話していくなら、納得する人はかなり出てくるように思います。

もちろん、「中国政府のプロパガンダ以外を全く受け付けない層」も当然いるでしょうし、そういう人たちには何を言っても無駄でしょうが、

「当然中国政府の言ってることだって脚色があるだろう」

と考えるのはむしろ中国文化における基本的人生観といってもいいぐらいなので、「“どっちについたらトク”とかでない誠意」によってちゃんと

「欧米メディアのプロパガンダにはそのまま乗れなくても、実際問題“ココ”はさすがに改善するべきでしょう」

という軸に「アジア人同士のナマの共感」を引き寄せていけるかどうか。

東大・丸川氏の記事によれば、「北疆」と「南疆」地区を分けてみれば、「北疆」地区では綿花生産の機械化が進んでおり、強制労働があるとすれば「南疆」地区であるはずだそうです。

「欧米メディアのプロパガンダとは違う路線」で、上から目線でなく地に足ついた分析と改善提案をしていけば、いざ「やる」となったら強烈に推進できる中国政府の豪腕を持ってすれば、「北疆地区でできていることを南疆で実現する」ことも可能なのではないでしょうか。

4:日本は「ヤンキーの気持ちがわかる優等生」の道を進むべき

Photo by Shutterstock

とはいえ一方で、欧米と協調して中国政府の強権的姿勢に「NO」と言う態度を、日本国全体としては示していくことも重要だと私は考えています。

今回の菅首相の訪米でも、ちゃんと協調してインド太平洋地域への中国の軍事圧力を非難する声明を出しておくべきです。

なぜかというと、もしそういう面まで日本が中国サイドに立ってしまうと、米中冷戦時代の人類社会が完全に「アジアVS欧米」にスッパリ分断されてしまい、どちらも一歩も引けない構造にまっしぐら…ということになってしまうからです。

幸いにも日本には強固な日米同盟があり米軍基地もあるので、完全に日本が「中国サイド」に立つことはありえないでしょうが、そのことは折に触れてしっかりと明確化しておくべきです。

軍事衝突を実際に起こさないようにするには、「紛争を仕掛ける側」が「簡単にやっちゃえるんじゃないか」という予想を簡単には建てられないように拮抗させておく必要があります。

インド太平洋地域に果てしなく軍事圧力を加えようとする中国の姿勢にちゃんと「NO」を言っていく部分においては、欧米、特にアメリカとの協調で一切の曖昧さを残さないようにしておかないと、中国側に「あれ?これやっちゃえるんじゃない?」という感覚を持たせてしまう可能性がある。

それによって突発的に「実際の紛争」が起きればあらゆる人が不幸になるでしょう。

日米同盟をはじめとする国際協調に基づいて中国の軍事的膨張への圧力を明確に確認し、ちゃんと「拮抗状態を維持する」ということは、強烈な国家的膨張のエネルギーを自分たちでコントロールできずに、全方位的に恫喝外交をしまくることで敵ばかり増やすことになってしまっている中国人のためにもなるはずです。

つまり、

・「NOと言うべき部分」においてちゃんとNOと言っておくこと

・欧米メディアのプロパガンダからは距離を置いてちゃんと事実を精査すること。そしてアジア人同士の共感関係を利用して中国に改善を促していくこと

この「両方」をやっていくことが、米中冷戦を本当に「火を吹く戦争」にしないためにも日本に求められていること…ということになるでしょう。

ここでも、「どっちについたらトクか」ではなく、ちゃんと「本当の誠実さ」を持って事にあたっていくことが重要です。

日本が果たすべきこういう役割について、私は2014年に出した著書『「アメリカの時代」の終焉に生まれ変わる日本』の中で「ヤンキーの気持ちがわかる優等生」の道と表現しました。

先生が高圧的に上から糾弾するだけでは、余計に「ムカつくからその逆をやってやる!」という方向にヤンキーさんを追い込むことになります。

一方で優等生がヤンキーさんと一緒になってタバコを吸ったり学校の窓ガラスを割りまくったりしはじめたら秩序も何もあったものじゃありません。

「気持ち」の面でちゃんとヤンキーさんと繋がり続け、そして先生の批判が一方的で理不尽だと感じる時にはちゃんとそれを制止する役割を担う。一方でちゃんと「優等生」ではあり続ける…そういう存在をこそ、人類社会は必要としているはずです。

次ページ 5:「問題解決のためでなく、自分がカッコつけるために誰かを糾弾する」悪癖を克服しよう

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