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- 2021.07.20
「反ワクチンのモンスター医師」が生まれてしまうワケ。彼らに負けずにワクチン接種を進めるために社会はどう向き合うべきか?【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(19)
3:しかし、単に「日本ってだめだよねえ」と言っているだけでは前に進めないんですよ
ただ、ここで単に「日本って体質が古い老害がのさばっている社会だから嫌だよねえ」みたいなことを言っているだけでは日本は前に進めないんですね。
たとえば、似たタイプの医師として、コロナ禍が始まってから、「日本の対策担当者のやっていることを全部否定して逆を言う」言論でワイドショーなどに持て囃され、一方で現場のお医者さんクラスタから総スカンになっている“K氏”がいますね(彼は反ワクチンではありませんが)。
実は、彼がコロナ禍前に書いた「日本の医者の数は政策的に低く抑えられすぎており、特に関東圏において何かあれば医療逼迫するのは避けられない」という趣旨の提言本は、たまたま読んだのですがものすごく勉強になりました。
そういう「個人主義の理想主義者の提案」が黙殺され、今のような有事になって欧米諸国と比べてかなり少ない感染者数でも医療崩壊の瀬戸際に追いこまれる大問題に発展してしまっている背景には、日本医師会や中央官僚の「既得権益」的なものが立ちはだかっているのだ…というのが「平成の30年間」で最もハバを効かせてきた理解の仕方だったと言えるでしょう。
しかし、物事をフェアに見ると、逆にその「既得権益」があるがゆえに保たれている日本の医療関係者の団結による必死の働きによって、ギリギリのところで日本の医療はアメリカみたいに貧乏人と金持ちで受ける医療が全然違うというような事態にはなっていない事情があるとも言えるんですね。
もちろん、その「日本の医師の高い使命感」に依存して彼・彼女らを使い潰すような制度は改め、なんらか合理的で透明感の高い制度に変えていくべきだ…という「改革の方向性」に反対する人はほぼいないでしょう。
しかし、それを「よほどの配慮なしに、ただ“犯人探し”をして誰かを悪者にして殴るだけ」のような解決案では、結局「アメリカのように貧乏人はマトモな医療が受けられない社会」に落ち込んでいってしまう可能性がかなり高いですよね。
「平成時代の日本」はあらゆる分野においてこのジレンマにぶつかり、
・「犯人探し」をして「既得権益の悪者」を叩くだけで結果として弱者にシワ寄せが行くだけの政策が遂行される
か、逆に
・それによって「アメリカ型の格差社会に落ち込むことを忌避するあまり“昭和的な根性主義”で内輪を締め付け、ちょっとした変化も拒否してしまう
の
「どちらか」しか選べない究極の二択
を迫られて右往左往してきたのだ…という理解をしてほしいんですね。
ビジネスエリートタイプの人は、こういう議論をすると露骨に拒否反応を起こすことが結構あって、
そうやって「日本流」にこだわるから結局何もできずに停滞し続けてきたんじゃないか!
という反論をされることが多いんですが、しかし私のプロフィールを読んでいただけるとわかるような、「グローバル」と「日本の“現場”的会社」のハザマで仕事をしてきた人間からすると、
「グローバル」側、あるいは「アカデミックな知性」を代表する側が、「日本社会」に変化を迫る時に、「あと一歩注意深く相手側の事情を理解できるようにする」
だけで全然変わってくると感じています。
今は、その「グローバル側・アカデミック側」にいる人間が「日本社会の事情」のことをあまりに無理解すぎる例が多く、結果として余計に「日本の主要部で舵取りをする人間」が「あまりにも非グローバルで非アカデミックな人」に占められてしまいがちなんですね。
とはいえ、たとえば岩田健太郎氏が明日から官僚組織の事情を理解して水も漏らさぬ根回しが得意になる、ということは今までの発言内容を見る限り考えにくいわけで、要はそういう「個人主義の理想主義者の提案」を、ちゃんと理解できるぐらいには「グローバルあるいはアカデミック」な視点を持ちつつ、日本社会の事情もちゃんと理解できる「翻訳者(私は“レペゼンする知識人”と呼んでいます)」が色々と差配できるセンターが、日本には必要なのだと考えています。
4:「平成時代の失敗」の「逆」を考える…官僚組織を無意味に叩くのはやめよう
つまり、「既得権益をぶっ壊せ!」と言う前に、「既得権益が現状必要とされている真因」の方に遡ってちゃんと考えるようにしないと、
なんでアメリカみたいにやれないの?日本って馬鹿じゃないの?老害ども全員さっさと滅べばいいのに。もう絶望だよ!
みたいな「平成時代の定番的意見」ばかりが溢れかえっていると、日本社会の方はアメリカ型の超絶格差社会に落ち込まないために、どんどん「昭和的根性主義」に引きこもってしまうわけですよね。
結果として、今のままだと本当に、コロナ禍が去ったらまた結局「完全に今の延長」の制度のままになってしまいそうですが、そうしないためには提案者の意見が有用であればちゃんと吸い上げつつ、現実的な社会の事情とすり合わせて最適な姿を模索する…そういう「機能」がどこかに必要でしょう。
私は中央官僚システムをむしろちゃんと抜本的に強化して、批判者を黙らせるでもなく、逆に批判者と一緒になって「◯◯をぶっ壊せ!」式の既得権叩きムーブメントに仕立てるでもなく、冷静に制度の細部を再設計して日本社会の事情と新しい考え方をすり合わせられるようなセンターとしての機能を持たせるべきだと考えています。
今は官僚システムに余力がなさすぎて、批判的な人物の提案をうまく吸い上げられず、「完全に無視して大雑把に現状維持」してしまうか、「大雑把な◯◯をぶっ壊せ式の暴論で改革する」結果としてどこかにシワ寄せが行くだけで終わり社会に呪詛の声が満ち溢れる…の二択みたいになってしまいがちですよね。
「アメリカ型の格差社会に落ち込まず、昭和的な根性主義に引きこもりもしない」ためには、よほどの高い見識と広い配慮を持ったセンターが必要です。 「平時に色々な提案をフレキシブルに吸い上げてちゃんとすり合わせて実行するセンター」を、日本社会のどこかが持てるようになることが、「反ワクチン運動の親玉になってしまったモンスター」たちをちゃんと抑止していく一方で、
「彼・彼女らの魂の鎮魂」
のために大事なことではないでしょうか。
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