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野党がこのままでは日本は「決して政権交代できない国」になりそうだが、それはそれでいいのかもしれない【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(23)
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  • 2021.10.23
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野党がこのままでは日本は「決して政権交代できない国」になりそうだが、それはそれでいいのかもしれない【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(23)

3:「政権交代しない野党」の役割もあるかもしれない

Photo by Shutterstock

「アベノミクス的な路線」の弊害的なものももちろん見えてきている現状ではあって、何らかのアクションが必要なことは確かだと思いますが、そこであまり物分りの良いことを言っているだけでは議論が硬直化しがちなので、

・立民・共産・れいわはもっと「分配」を!という方向でとにかく非妥協的に引っ張る

・維新はもっと「改革を!」という方向でとにかく非妥協的に引っ張る

ついでに言えば

・自民党内最右翼(高市派)は「もっと財政出動を!対中強硬を!エネルギー政策における原発の再重視を!」という方向でとにかく非妥協的に引っ張る

…という「細かい議論とかはいいからとにかく信じる方向へ引っ張る」グループがそれぞれの方向にいる中で、宏池会的なバランス感覚を持つ岸田政権が常にバランスを取りながら現実的な舵取りをしていくみたいな光景は、今後の日本が目指すべき世界なのかもしれません。

たとえば「分配」は必要です。ですが、あまりに国際的情勢から外れたレベルの法人税アップとか金融所得課税の一気呵成の上げ方をするのが得策かどうかは別の話で、タイミングが非常に重要になってくる。

この連載の過去記事で書いたように、過去10年〜20年の「ネオリベ」の時代は世界全体で終わりつつあり、アメリカ大統領のバイデン氏が「ウォール街でなく中間層がこの国を作った」とか言う時代なので、法人税を国際協調で下げすぎないようにする協定など、いろいろと「外堀」が徐々に埋まってきつつある情勢ではある。

過去10年に世界中でもてはやされてきた「シンガポール型のネオリベの楽園」みたいなビジョンへの厳しい目が世界的に高まる中で、それに「先んじすぎず遅れもせずに」分配路線に舵を切っていくことが必要だと思います。

読者のあなたが「そんな生ぬるいことじゃダメだ!明日すぐに法人税を倍にしろ!」と思う人なら、全力で立民や共産やれいわを推して、そっち側に引っ張る圧力をかけてくれればいいのかもしれません。

「政権交代する野党」を望むならあまりに非妥協的にそればかりになられると困りますが、「政権交代しない野党」ならむしろその方がいいのかもしれない。

とはいえギリギリの真剣勝負の中で、「分配」を求める声と、維新側のようなネオリベ路線の延長との引っ張りあいの均衡の中で、世界的トレンドからあからさまに遊離して資本逃避が起きてしまうようなことがないタイミングを見計らって、「分配」路線を動かしていってくれれば、自民党総裁選の時に好評をいただいたこの記事で書いた「宏池会路線」への大政奉還の意味もあるでしょう。

でもできれば、野党側にいる人は税制の細かい話をした上で、どこにどういうイビツな構造があるのかを指摘し、真剣に細部を詰める議論も深めていってくれたらと思っています。

特に、議論がかまびすしい消費税問題の影で、社会保険料が年々地味にかなり上がっている(しかもあまり累進性がない)ことがいろいろな問題を引き起こしていると言われています。

結果として、「最底辺層からすると金持ちと言われるかもしれないが、俺たちだって余裕はないんだよ」というようなレベルの層に負担が集中する構造になっていて、最高レベルの富裕層への負担率は低いままになってしまっている現状がある。

「金融所得課税」にしても、あれは「なんとか“億り人”になってFIREしたい」という「庶民の切実な夢」をむしろ直撃する感じだから問題視されているのであって、もっと細かい累進性の制度の細部を工夫すれば今ほどの抵抗感は薄れるかもしれません。

「とにかく議論を一方向に引っ張る野党」の役割はあるにしても、野党を応援するメディアも含めてこのあたりの細部の深堀りにちゃんと力を使うようにしていってくれたらとは願わずにはいられません。

これは「維新」型の「改革を止めるな論」においても同様で、世界的に「ネオリベ路線への共感」がどんどん失われていく情勢の中で、過去10年〜20年とは違った言論環境が生まれていることを考えれば、単に「既得権益」を攻撃するだけの論調が理解を得られづらくなっている状況があるわけです。

「既得権益をぶっ壊せ!」と20年間言い続けて結局「岩盤」に跳ね返され続けたんですから、今までとは別のやり方で味方を募って変えていくべき時期が来ているのではないでしょうか。

この記事などで最近何度も書いている私のクライアント企業で10年で150万円平均給与を上げられた例では、結果的に見れば「改革」自体はすごく進んでいますけど、それは「抵抗勢力を悪魔化してぶっ壊すと騒ぐ」ことで実現したわけではありません。むしろ「横から見ていて歯がゆいほど守旧勢力に敬意を払いながら変えた」ことが成功要因だった。

こういう事を言うとビジネスエリート的な人とか、社会運動家みたいな人はものすごく嫌な顔をするんですが、「世界的なネオリベ路線の退潮ムード」がある中で、「ただぶっ壊すと言えば喝采を受ける」状況でなくなったことは、日本社会を実質的に本当に「変えていく」ために大事な環境変化ですらあると私は考えています。

ただこれも、「そんな生ぬるいことじゃダメだ!」と思う人は維新支持者として「ぶっ壊す!」と言い続けることが必要なのだということなのかもしれませんが…。

そうなると、結局日本は「政権交代はありえないが理想論を徹底的に述べる野党」と「なんだかんだでグニャグニャと落とし所を見つける自民党」のプロレスによって政策を決めていく世界になっていくのかもしれません。

普通の意味での「噛み合った議論」とは別の、国全体の言論状況をマクロに見た時には、「噛み合っていない議論」自体にも意味があるというのが、民主主義の本質なのかもしれず、岸田政権はそれを「乗りこなす」ことにチャレンジしつつあるのかもしれないと思っています。

4:「民主主義の面倒臭さ」と向き合いながら変わっていこう

コロナ禍が最も厳しかった時などには、中国のような強権的体制でトップダウンにやれる政治を羨む声も結構ありましたが、ここ最近はあまりに権力が集中しすぎた習近平政権が、思いつきのように強烈な規制を連発するハンドルの切り方をしてそれに十数億人が従わされるジェットコースター状態なのが問題視されるようにもなっています。

それと比べれば、色々と「民主主義社会」は面倒なことが多いですが、その面倒なことを全体としてうまく乗りこなしていくことができればその可能性は大きいはずです。

「議論」といってもちゃんと「対話」が成り立っているものだけが「議論」ではないのかもしれません。

野党支持者の「与党側を絶対悪化する議論」は、それ自体を見ると「何言ってやがる」的に反発する気持ちを自分は持っていたのですが、「そうまでしてても主張しないと共有できない何かがある」と言われると、「確かにそうかも?」と思うところもある。

ただ、あまりにも「敵を悪魔化する議論」に本気で没入する人が国民の中で増えすぎてしまうと、この高度なバランスが崩れてしまうので、「一応頭の隅では」この記事で書いたようなことを理解していただきながら…ではありますが、

しかし、あえて、今はこの方向で全力で純粋化した主張をする役割が必要なのだ!

…というのならば、それをいかに活かして常にバランス感覚を持ちつつ着実に社会を前に進めていくか? は「自民党側の責任」というか、「岸田派宏池会的存在」の腕の見せどころということになるのかもしれません。 「アベノミクスで引きこもっていないで、多少の雇用悪化や社会の不安定化があってもあそこで社会を前に進めるべきだったのだ」という考え方もありますが、わたしは過去10年「死んだフリ」をしていた意味は必ずあると思っています。

10年前は、「ネオリベ」が世界的に調子に乗りまくっていた時期で、あの時期にノーガードでその風潮に突っ込んでいった国は、たしかに日本より経済パフォーマンスは上だったと思いますが、国の中の分断がひどいことになって、今後色々と問題になってくるはず。

過去10年、「アベノミクス」的に内輪でしっかり守り合って社会の安定を維持してきた日本は、たしかに経済パフォーマンスは不調だったが、一応まだ都会も田舎も富裕層も貧困層も同じラーメンとコンビニと漫画を共有できる部分が、幻想になりかけの土俵際の薄皮一枚繋がっている。

「白熱教室」のマイケル・サンデルが新著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』で言ったように、「社会の共通善という感覚」は雲散霧消してしまうと取り戻すのが難しいものです。

「10年前のネオリベ全盛期」には引きこもって自分たちを守ってきたが、今のような「米中冷戦時代」に、「ネオリベのその先」が世界的に必要とされる時代には、その両者の調和を実現するトップランナーになりえる…そういう構造的な「繁栄のボーナスタイム」すら引き寄せられるとわたしは考えています。

そういう趣旨で、来年1月に、久しぶりの著書でその「繁栄のボーナスタイムの引き寄せ方」について書いた本を出します。

こちらのサイトで、序文「はじめに」の先行無料公開をしていますので、よろしければお読みください。

感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターにどうぞ。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。


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