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岸田政権の「グダグダ」は日本が「本当の対話と改革」を実現するための予兆である【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(26)
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  • 2021.12.30
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岸田政権の「グダグダ」は日本が「本当の対話と改革」を実現するための予兆である【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(26)

5:岸田首相がグダグダなのは仕方ない。どう活かすかが大事なのだ。

私はスガ首相が結構好きで、確かに弁舌さわやかにテレビで国民に説明する能力は壊滅的だったけれども、あれだけマスコミや野党に「根拠がない」「適当なことを言うな」などとむちゃくちゃに批判されていた「ワクチン一日100万回」をゴリ押しで実現するとか、携帯料金を下げるとか、カーボンニュートラルの目標設定をするとか、「これが必要だ」と心に決めた政策を実現する能力は非常に高い人だったと思います。

だから、「スガは権力の座にいることしか興味がない小者」みたいな、実態とかなり違う批判をする人たちには怒りを感じていたんですけど。

ただ、結局そういう「強引さ」が嫌だからと「必殺仕事人スガ」を引きずり下ろしたんだから、後任の岸田氏が多少優柔不断でグダグダ感があっても我々は甘受しなくてはいけないところがあるでしょう。

しかし、岸田氏が新総裁になったことで、「どの勢力も無理やりには押しきれなくなった」ことは、単にこのままグダグダなだけになっていく可能性も十分ありますが、見方を変えれば「抵抗勢力をぶっ壊せ!」型の議論は全部通らなくなったのだ…という状況に追い込まれているということでもあります。

今の日本の政治状況は、先述したような「幽霊相手のケンカ」的な意見は全て跳ね返してしまう関門のようになっていて、特定の勢力が一方向的にゴリ押ししようとしても、全てナアナアの日本的曖昧さに絡め取られてしまう状況にあると言えます。

それは単にグダグダの無方向的な漂流状態になる可能性も十分ありますが、一方で今まで数十年間沈黙させられていた「本当の対話」の回路が開いてなんとなぁ〜くスルスルと改善が進むようになる可能性もある。

製造業の工夫の一つとして、「間違った場所に組み付けようとしてもハマらないような設計にする」ことでミスを防ぐ…という方法があります。

あるいは「武道の型稽古」を考えてみると、「本質的に正しい体の使い方をしないとむしろ窮屈に感じるような動き」を練習することで、今までの日常的な悪いクセを脱却してより良い体の動かし方を自己発見できるようになっている。

それらと同じように、「本当の対話」以外の幽霊相手のケンカ的な議論はすべて受け付けない、沼のような状況に自ら飛び込んだ形になった日本は、その閉塞感とちゃんと向き合うことができれば、「その先の世界」を見ることができるようになるはず。

さきほどの私のクライアントの話のように、「本当に大きな変化」というのは、実際に内側で体験してみれば「怒鳴り合いのドラマ」とか「あの決断こそが真実の決定的瞬間だった!」というような大げさな状況は発生せず、静かに進んでいくものである可能性が高いです。

それは一部のエリートが「ぶっ壊す!」式に引っ張り回そうとする無理を日本という「沼」に飲み込んでしまった先にある、すべての細胞が勝手に考えて勝手に行動してスルスルと常に形を変えていく、巨大で不定形な謎の生き物のような進化となるでしょう。

『ジョジョの奇妙な冒険』のセリフ風に言うならこうです。

『なるようにしかならない』 という力には無理に逆らったりするな……
『本当に国運が上向く』 ということはそれさえも味方にするということだからだ

今回の記事は以上です。

記事中に書いた本は、2022年2月5日に『日本人のための議論と対話の教科書』というタイトルでワニブックス新書から出る予定なので、ご期待ください。

また、この本の出版プロセスで体感した「日本の出版業界のナアナアさ」には良くない点もあるが一方で「ジャンプ編集部」的な世界的成果を出す秘訣も眠っていて、今回記事で書いたような「言語化した議論」だけで閉じない社会の連動性の重要さという意味においてはその「ナアナアさ」をいかに善用していくのかが大事なのだ…という記事をnoteで書きましたので、そちらもよろしければお読みください。

さらに、そういう「論理以前の直感的連動性」という話をさらに深堀りするものとして、古代ギリシャにも、現代の腐女子がやるような「カップリング妄想」の世界があったという話から、そういう多神教的豊潤さを失わずに社会の基礎として活かして行くことの重要性について書いた記事も、同じ意味で今後の日本にとって大事な話だと思うのでぜひどうぞ。

感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターにどうぞ。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。


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