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「首都圏大停電の危機」は誰の責任か。皆が誤解する「日本のエネルギー政策」の本当の課題【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(31)
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  • 2022.03.25
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「首都圏大停電の危機」は誰の責任か。皆が誤解する「日本のエネルギー政策」の本当の課題【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(31)

2:結局のところ安定供給が崩れた原因は何なのか

Photo by Shutterstock

SNSでは、原発の再稼働が遅れていることや、再エネの導入が今回の電力逼迫の原因だと名指しされがちですが、それは最大の原因とは言えません(ただし回り回って影響を与えてはいます)。

一言でいうと「電力自由化」の制度上の歪みが元凶だと言えます。

2021年5月に書かれた朝日新聞デジタルのこの記事がコンパクトにまとめてくれています。

重要な部分が有料会員限定になっているので要約に留めますが、同記事では、新電力に顧客を奪われた大手電力がコスト削減のために古い火力発電所を相次いで休廃止しており、今後も脱炭素のため減少が見込まれること、そして背景にある日本の電力市場における利害対立を丁寧に整理しており、ご興味があれば元記事をお読みいただければと思います。

多くの電力小売事業者は発電設備を持っていません。ただ電力卸売市場から調達して「売る」ことだけをやっています。

さらに再エネ発電事業者がFIT(固定価格買取制度)を利用して発電した電力を売っています。しかし彼らは安定供給の責任を負っているわけではありません。

結果として、電力需要が最も高まった時の“余力”を用意しておくコストは、すべて東電などのいわゆる「旧一電(=旧一般電気事業者)」に「ツケを押し付ける」状態になっていたのです。

たとえば今回の電力逼迫状況下でギリギリのところで大停電を救った「揚水発電所」などが非常にわかりやすい例だと言えます。

今回のような危機的状況にならないと本領が発揮されない設備ではありますが、その維持コストは東電が払っています。

環境ジャーナリストの知人の話では、東電のような「旧一電」の社員からは

「新電力は全然責任を負う気がない一方でなんで俺たちだけ不利な競争をさせられなくちゃいけないんだ」

…という不満を聞くことがよくあるそうです。

逆に電力自由化推進派からは、旧一電の持つ発電所は独占企業として守られていた時期に国民からの付託を受けて作ったもので、それを自分たちの利益が合わないからと廃棄するべきではないという指摘もされています。しかし実際それを維持できない状況に追い込んでしまう制度を作っておいてそんなことを言われても彼らも困るでしょう。

昨年や今年冬、そして今回の電力逼迫を受けて、この「電力自由化自体が間違いだったのではないか」という声も高まっています。

確かにそれは一つの選択肢としてあるかもしれません。しかし、「旧一電」だけが全てを支配する構造の問題も一方ではあります。

また今後予想される多種多様な自律分散型電源を協調的に利用するイノベーションのための布石でもあり、以前のように完全な「一社独占状態」に戻す事も現実的ではないようです。

では結局どうするかというと、その「東電のような企業にツケを押し付ける」状態を解消するために、2020年から「容量市場」という仕組みがはじまっています。

2020年に開催された、内閣府による「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース 」の第1回資料に以下の図があります。

「自由化前」は東電などが安定供給の責任を全て負っていたが自由化後は誰も責任を取らなくなったので、「安定供給をするコスト」を全体で負担する市場を作るわけですね。

内閣府「第1回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース 会議資料」より、資料4-2「容量市場に対する意見」(構成員 提出資料)

この「容量市場」がうまく機能するのかどうかは、まだ始まったばかりなのでわかりません。

専門家の論調も割れているようです。ただ、また不都合があれば微調整をしつつ、だんだん安定的に運用できるようにしていくしかないのではないかと思います。

私はこういう制度を色々調べるたびに思うんですが、日本の官僚はそれなりに頑張って対処していると思います。“対処の方向性”は非常に信頼できると感じます。

ただ何しろ遅い!本当に遅いです。問題が発覚してギリギリの危機になってから、やっと「4年後をめどに開始」みたいなレベルの話が動き出すような感じです。 そして、混乱する世論の中でなんとか少しずつ共通了解を作って制度を調整していくのに精一杯で、次々と生まれる新しい技術などを柔軟に取り入れる事も非常に苦手です。

ではどうすればいいのでしょうか?

今日本に必要なのは「犯人探し」ではなくて、こういう「今の制度の歪み」を具体的に分析して、ちゃんと現実に合わせた微調整の繰り返しを、丁寧にやりきることなのです。 そしてそういう動きを皆で邪魔しないでバックアップしてあげられるようになれば、新しい環境変化への対応や新しい技術ももっとスムーズかつ柔軟に取り入れることができるようになっていくでしょう。

しかし、この「丁寧な議論」が、単に「敵と味方」に別れた罵り合いや、マスメディアも巻き込んだ「犯人探しの大騒動」にかき消されてしまうために、過去数十年の日本の政策は迷走し続けてきたのです。

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