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「お坊さんがTikTokで人生相談してていいの?」異色すぎるラッパー僧侶がネットをフル活用するワケ
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  • 2023.10.06
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「お坊さんがTikTokで人生相談してていいの?」異色すぎるラッパー僧侶がネットをフル活用するワケ

「般若心経 現代語訳 Rapしてみた」をYouTubeで公開して10万再生を叩き出し、TikTokにて仏教の教えやお経の解説、また現代の若者たちの恋愛や人間関係、人生についての悩み相談を展開している曹洞宗雲門寺の僧侶、古溪光大氏。同氏が初の書籍『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』(徳間書店)を出版した。

同書には将来の夢が書けなかった少年時代、親にも自分にも絶望した受験戦争と就職、そして出家して仏教で生きることを決めた半生を綴り、修行中の悟りや縁を認識して生きる、愛されたければ自分から愛するといった考え、同性婚、推し活、毒親、怒りとの向き合い方など、SNSに寄せられた悩みについても答えている。

こうした活動は「トリッキー」を超えてアクロバティックにも映るし、実際に批判を受けることもあるという。では古溪氏はなぜこのような取り組みを続けるのか。本記事では書籍からその問いに答える内容をお届けする。

※本記事は古溪光大『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』の内容を再編集したものです

古溪光大(ふるたに・こうだい)

1994年、龍峩山雲門寺の後継ぎとして生まれる。 中央大学経済学部卒業後、帝人株式会社入社。ヘルスケア部門にて4年間勤務した後、退職。2021年2月より1年3カ月間、大本山永平寺にて修行生活を送る。
帰山後、「仏教をもっと身近に感じてもらいたい」との思いから、TikTokに仏教や人生について語る動画の投稿を開始したところ、 幅広い層から支持を受け話題に。半年足らずで8万人以上のフォロワーが集まり、その数を増やし続けている。
活動の一環として制作した「般若心経 現代語訳 Rapしてみた」は、YouTubeにて10万回再生を突破。
現在のビジョンは「僧侶が個性や才能をいかせる仕事と寺院運営を両立できる世界をつくる」こと。
僧侶、TikToker、ラッパー、起業家として、既存の枠にとらわれることなく仏教界に新しい風を吹き込もうと日々活動中。
公式サイト:https://www.furutanikodai.com/

TikTok僧侶の誕生 「生き方・僧侶」を目指す

仏教の教えは、「長くて、つまらなくて、難しい」といわれます。それを、「短く、楽しく、わかりやすく」伝えることができたら......。

そんな僕の願いにぴったりなプラットフォームがTikTokでした。

TikTokで仏教について話したり、キャバクラ嬢と対談したり、ラップをしたりしていると、「お坊さんがそんなことやっていいの?」と「お坊さんらしくない!」という声をいただくことがあります。

お坊さんらしさって何でしょうか。

お寺で法事をすることでしょうか。葬儀場に出向いて、お経を呼んだり戒名をつけたりすることでしょうか。

確かに葬儀をはじめとする法要を行うのは、僧侶の大事な仕事です。法要はご先祖様との縁を感じて、命に感謝する機会になるからです。

でも、お経を読んで戒名をつけるだけなら、ロボットやAIでも十分事足ります。

本来のお坊さんの役割は、人々の苦しみや悩みに寄り添い、仏教の法話を通して、生きていることそれ自体の尊さを感じてもらうことです。

僧侶本人が一生懸命生きていないと衆生(しゅじょう。人間をはじめとする命あるものすべて)を救う話や行いはできません。

だから僕は「職業・僧侶」ではなく、「生き方・僧侶」を目指したいのです。

僧侶を生活手段にしたくない 「お坊さんらしくないこと」をやる理由

「職業・僧侶」とは、お墓の管理や法要など、お寺の仕事だけで生活をすること。「生き方・僧侶」とは、お寺の外にも活動や経済の基盤を持ち、仏道を歩むこと。僕の中の定義です。

「職業・僧侶」になると、お寺の中だけで仕事をし、そこで見聞きした価値観の中から法話をし、檀家さんからのお布施で生活することになります。

もちろん、それで素晴らしい活動をされている僧侶もたくさんいらっしゃいます。

でも僕は未熟者なので、「職業・僧侶」になったら、檀家さんとお話しする時間や法要をお金に換算するようになってしまうかもしれないし、お寺の外で生きる人たちの悩みを理解できなくなってしまうかもしれない......。

だからこそ、実家のお寺運営以外にも“飯の種”を持ち、世間からは「お坊さんらしくない」といわれることにも積極的に関わって、さまざまな価値観に触れて生きていきたいのです。

平日は東京で生活し、週末だけ実家である群馬の雲門寺に帰る、という生活を続けているのもそのためです。

SNSは最高の布教ツール 仏教と縁がうすかった人とも繋がりたい

TikTokやInstagramなどを通して、仏教や人生のお話をしていると「お坊さんがSNSなんてやっていいの?」と聞かれることがあります。

逆に聞きたい。なぜ、お坊さんはSNSを使ってはいけないのでしょう。

僕は、SNSは現代にマッチした最高の布教ツールだと思っています。 

仏教には、生きることが楽になり、心が自由になる教えがたくさんあります。それを伝えて、人生を楽しめる人を増やしたい。

SNSを活用すれば、若い人や海外の人など、これまでお寺や仏教に縁がうすかった人たちとも気軽に繋がることができます。

特にTikTokは短い動画をたくさん投稿できて、楽しい雰囲気も出せるので、仏教をもっと身近に感じてほしいと考えている僕にはぴったりのプラットフォームです。

実際、TikTokを始めたら、瞬く間にフォロワーさんが8万人以上に!お寺で法話を聞きに来てくれるのを待っているだけでは、到底繋がることができなかったであろう、たくさんの縁に恵まれました。

さまざまな人と出会い、一人ひとり異なる人生に触れることは、僧侶にとって大切な修行でもあります。そして、修行で得た気づきを、法話を通して衆生(世間の多くの人々)に返していく。この法話が僕の場合は、TikTokの動画であったり、ライブイベントだったりもするわけです。

リアルでの出会いも、SNSを通した出会いも、等しく尊い縁。すべて縁に真剣に向き合っていきたいと考えています。

オンライン法要でお寺へのアクセスのハードルを下げたい

先日、弱視の方が亡くなったお子さんの供養をしたいと、オンライン法要に申し込んでくださいました。

僕が行っているオンライン法要は、LINEのビデオ通話を繋ぎ、お寺からお経を上げ、法話をします。

法要を電波にのせるなんてと眉をひそめる人もいるかもしれません。でも、僕がオンライン法要をするのには理由があります。

意外に思う方が多いかもしれませんが、お寺に来るのは、元気で健康な人が多いのです。街中から離れたところにあったり、境内に階段があったりして、お年寄りや体が弱い方には、物理的なハードルが高いからです。付き添いの人に迷惑をかけたくないからと、お寺に来るのを遠慮される方もいます。

また、親族と縁が切れて檀家だったお寺に行けなくなってしまったとか、お布施が払えるか心配で行きづらいという方もいます。

今回お子さんのオンライン法要をされた方は、「ビデオで様子もわかって安心したので、今度はお骨と一緒にお寺に行ってみたい」と言ってくださいました。

さまざまな事情でお寺には来られないけれど、大切な人を供養したい......。 そんな思いを抱く方と亡くなった方、そしてお寺の縁を繋ぐ場として、これからもオンライン法要を続けていきたいと考えています。

LINEで現代版寺子屋 本当の自分を吐露できる場所をつくる

「寺カフェ『対話の部屋』」という公式LINEをオープンしています。LINEの友だち追加をすれば誰でもいつでもアクセスできて、僕に悩み相談や誰にも言えない本音などを送信できる仕組みです。

現代版寺子屋として、心の拠り所となるような場をつくれたらという思いで始めました。

思いのままを書き出してスッキリされる方もいれば、電話やビデオ相談に進む方もいます。

「もう死にたい」というメッセージが来たので、「大丈夫ですか?今からお話ししましょうか?」と連絡したところ、「あ、これから仕事で忙しいので!」と元気に通話を切られたこともあります。

でも、それでいいのです。「死にたい」という思いを吐き出せる場所があることが大切。

「こんなことを言ったら、嫌われるのではないか」とか「家族や友人には絶対知られたくない悩みがある」とか、そんな感情や事実も、その人の大切な一部分ですから、蔑ろにすれば、自分を見失ってしまいます。

LINEから始まる縁もあります。つらい時や悩んだ時、僕のことを思い出していただける瞬間があったなら、「対話の部屋」にメッセージを送ってください。

■寺カフェ「対話の部屋」 
https://line.me/R/ti/p/@468zyvaf


同じく『君と僕と諸行無常と。』からの抜粋記事

毒親育ちでも親に感謝しなきゃダメ?異色のTikTok僧侶が語る「怒りと苦しみからの抜け出し方」

もぜひお読みください

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