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毒親育ちでも親に感謝しなきゃダメ?異色のTikTok僧侶が語る「怒りと苦しみからの抜け出し方」
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  • 2023.10.12
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毒親育ちでも親に感謝しなきゃダメ?異色のTikTok僧侶が語る「怒りと苦しみからの抜け出し方」

「般若心経 現代語訳 Rapしてみた」をYouTubeで公開して10万再生を叩き出し、TikTokにて仏教の教えやお経の解説、また現代の若者たちの恋愛や人間関係、人生についての悩み相談を展開している曹洞宗雲門寺の僧侶、古溪光大氏。同氏が初の書籍『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』(徳間書店)を出版した。

同書には将来の夢が書けなかった少年時代、親にも自分にも絶望した受験戦争と就職。そして出家して仏教で生きることを決めた半生を綴り、修行中の悟りや縁を認識して生きる、愛されたければ自分から愛するといった考え、同性婚、推し活、毒親、怒りとの向き合い方など、SNSに寄せられた悩みについても答えている。

本記事では書籍に掲載された「一切皆苦(いっさいかいく。人生には自身の思い通りにならない苦しいことが多々あるという教え)」をテーマにしたエッセイの中から「ネガティブな感情と付き合っていく方法」「毒親との向き合い方」についての文章をお届けする。

※本記事は古溪光大『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』(徳間書店)の内容を再編集したものです

古溪光大(ふるたに・こうだい)

1994年、龍峩山雲門寺の後継ぎとして生まれる。 中央大学経済学部卒業後、帝人株式会社入社。ヘルスケア部門にて4年間勤務した後、退職。2021年2月より1年3カ月間、大本山永平寺にて修行生活を送る。
帰山後、「仏教をもっと身近に感じてもらいたい」との思いから、TikTokに仏教や人生について語る動画の投稿を開始したところ、 幅広い層から支持を受け話題に。半年足らずで8万人以上のフォロワーが集まり、その数を増やし続けている。
活動の一環として制作した「般若心経 現代語訳 Rapしてみた」は、YouTubeにて10万回再生を突破。
現在のビジョンは「僧侶が個性や才能をいかせる仕事と寺院運営を両立できる世界をつくる」こと。
僧侶、TikToker、ラッパー、起業家として、既存の枠にとらわれることなく仏教界に新しい風を吹き込もうと日々活動中。
公式サイト:https://www.furutanikodai.com/

ネガティブはコスパが悪い ポジティブはお買い得品

スーパーに行って、同じ賞味期限、同じ内容量の、まったく同一商品があったとします。片方には半額シールが貼ってあって、片方に貼っていなかったとしたら、あなたはどちらを選びますか?

まったく同じ物なのであれば、お得なほうを選ぶ人が多いのではないでしょうか。

僕にとって、ポジティブ思考はこの半額シールが貼ってある商品で、ネガティブ思考は定価の商品です。

ネガティブでいることは、まったく同じものを手に入れるために倍以上のお金を払っているようなもの。

どうせ人生という苦行を歩むのであれば、少しでも楽らくなほうを選ぶのがいいとは思いませんか?

ポジティブな人は、自分のご機嫌取りが上手です。自分の人生を楽なほう、楽なほうに操縦するからです。

お気に入りの服を着ている時に、雨が降ってきてしまったら、服がどんどん水分を吸って重くヨレヨレになっていくのをただ嘆なげくのではなく、さっとワンコイン傘でも買って、さっさと家に帰ったほうが、結果として苦労も心労も少なく済みますよね。

ポジティブ思考は、無理に明るく振る舞うことでも、楽観的になりすぎることでもなくて、ただ自分を楽させてあげることだと考えています。

怒りのコントロール 激情を鎮める行

怒りもコスパの悪い感情です。

怒った状態で我を忘れると、あとから冷静になって、「あんなことをしなけなればよかった」「何であんな態度をとってしまったんだろう」と、後悔に苛まれることもしばしば。怒りが日常にもたらす悪影響は明白です。

怒りをコントロールするために必要なのは、ついカッとなってしまった時に

1.自分が怒っていることを認めること
2.なぜ怒っているのか、その一点に集中して分析すること

自分の怒りに気づいて認める。これは簡単なようで実はなかなか難しい第一歩です。

怒りは心にも体にもダメージを与える感情なので、まず気づいてそれを収める。でも、怒らないようにしようと、感情を抑え込むのは無理があります。 

怒りの感情に気づいたら、心の中で3回「私は怒っています」と、唱えてみてください。

これは怒りを鎮めるための行(ぎょう)です。

怒りを認識し、心の中で唱えれば、自分が何に対して怒っているのか見えてくるはず。この行を繰り返すうちに、周囲にある怒りの原因や、何に対してストレスを感じるのかがわかってきます。

迷惑はかけていい 迷惑をかけない人なんていない

「人に迷惑をかけてはいけない」

そのように親や先生から教えられてきた人は多いはず。

これって正しいようで正しくないな、と僕は思うのです。だって、迷惑をかけずに生きるなんて無理だから。ただ歩いているだけで、アリを踏み潰つぶして、尊い命を奪っていることもあるかもしれません。

アリの話は極端な例ですが、そもそも、何が迷惑で何が迷惑じゃないかの基準は人ぞれぞれ。深夜のLINEが迷惑な人もいれば、そのLINEに救われる人もいるかもしれない。

「迷惑をかけずに生きよう」と真面目に思えば思うほど、何もできなくなってしまいます。

それに、「迷惑をかけないように生きよう」と思うと、他人からの迷惑に厳しくなってしまいます。「自分はこんなに気をつけているのに」って。

人は生きていれば誰でも迷惑をかけるもの。その迷惑を許せなくなるのは、人の存在自体を許せなくなってしまうことです。これほど生きづらく、悲しいことはありません。

だから、「人に迷惑をかけてはいけない」なんて思わなくていい!

もし誰かからの迷惑行為に憤りを感じることがあったら、「自分も人に迷惑をかけているんだし」と思ってみませんか。そうすることで、ずっと生きやすく優しい世界になるはずです。

「毒親」育ちでも親に感謝しないといけませんか?

「自分を産んでくれた親やご先祖様さまに感謝しなさい」というのが仏教。

この教えを煩わしく感じる人が少なからずいます。

幼少期の被虐待やネグレクト、過干渉、行き過ぎた躾などによる傷は、成長して自立した大人になっても、深く深く心に残り続けます。

毒親でも大切にしないといけないのか。

断ち切れない血縁を煩わしいとは思っていけないのか。

育ちに起因する親への恨うらみを持つ人たちの心の叫び、疑問はごもっともです。

かくいう僕も、親との関係には少なからぬ葛藤や対立があり、長い間苦しんできました。感謝や尊敬の念が抱いだけるようになったのは、ごくごく最近のことです。

自分が人生のさまざまなことに葛藤している時に感謝できないのは当たり前。

でも、「こうなったのは親のせい」「世の中のほとんどの人は幸せに育っているのに」と、ずっとずっと親を恨み続けるのは、あまりにも苦しすぎます。

感謝の気持ちを持つことは、毒親の罪をすべてなかったことにするわけではありません。どんな事情があったとしても、親に感謝できることを見つけ出す。

それは自分自身を救うためなのです。

感謝は解毒 苦しみから解かれて自分らしい人生を

親といっても、人間ですから、精神的に未熟な人や不出来な人など、さまざまな人がいます。

あなたが親への恨みや怒りを抱えて苦しんでいるのなら、未熟で不出来な人が、未熟で不出来なりに与えてくれたことに目を向けてみてはどうでしょうか。

育児放棄や虐待、親のエゴとしか思えない躾(しつけ)をされていたとしても、「何か」をしてくれた未熟者のおかげであなたは今を生きているわけです。

与えてくれたことは、もしかしたら他所の親の何千分の一かもしれない。でもその何千分の一の何かに、それはそれで感謝してみませんか。

食事をくれた。居場所をくれた。名前をくれた。お腹の中で約10カ月間育てることをやめなかった......。

わずかなことに少しでも感謝の気持ちを持てた時、親の毒は、少しずつ解毒されていきます。

今すぐではなくてもいい。

少しずつ苦しみから解かれて、幸せに自分らしい人生が送れますように。


同じく『君と僕と諸行無常と。』からの抜粋記事

「お坊さんがTikTokで人生相談してていいの?」異色すぎるラッパー僧侶がネットをフル活用するワケ

もぜひお読みください

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