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コロナ後の経済再開の最善策は日本の製造現場が知っている【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(4)
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  • 2020.05.18
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コロナ後の経済再開の最善策は日本の製造現場が知っている【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(4)

4:日本のスマホゲームの運営さんとプレイヤーのイメージで

読者のあなたがいわゆるビジネスパーソン(特に製造業寄り)的な経歴の人でなかったら、あまりこういう「インテリとマイルドヤンキーの相互作用」のイメージが湧かないかもしれませんが、そういう人は日本のスマホゲームの運営さんとプレイヤーの関係を考えてみるといいです。

運営さんが何か新しい要素とか環境変化を公開すると、まずインテリのプレイヤーがかなり細部までそのダメージ計算式やら何やらを解析して公開したりしますよね?

で、それがブログや動画メディア経由でだんだん伝わっていって、最終的には文字とか読まない、動画しか観ない層まで伝わる。そしたら、

「なんかわかんねーけど、この数字ができるだけ下がるようにコレ使って工夫すりゃいいんだろ?わかったよ、やるぜ!」

みたいな感じで、パチプロ風の集中力とガッツのある「現場の人」がラストワンマイルの色んな工夫を載せてくれる。

欧米社会では「インテリ層」とこの「マイルドヤンキー層」との分離が果てしないことになって、ブレグジットや欧州極右政党やトランプVS反トランプ問題みたいになってしまっています。

日本の製造業の現場にはまだまだこういう文化が残っているので、私のあるクライアント企業のように大卒が2割ぐらいしかいない地方の会社でも、グローバルサプライチェーンの中でちゃんと優位性を確保し続けることができている。

経済の主戦場が「重さのない」IT空間から、ITと「重さのある」現実世界との相互作用が必要になってきている現代においては、こういう文化は経営的に重要な要素にこれからどんどんなっていきます。

そしてもちろん、トランプVS反トランプ的な欧米文明の根本的な課題を乗り越える希望の源泉にすらなりえます。

今、日本では「自粛警察」的にメチャなことをやる人たちが問題になっていますが、それは「専門知・学問知」のがわの人間が「日本人の現場」を信頼せず、非常にザツで大雑把なガイドラインしか示せていないから結果として起きていることだと考えてみましょう。

そこで「民度が低い、野蛮だ」と上から目線で断罪する発想は無意識の欧米文化中心主義的レイシズムだと私は考えます。

もっと「日本の現場」を信頼し、欧米みたいに「学問知だけに全知全能の権限が与えられている国」にはできない方法で解決しましょう。

R<1を実現する「新しい生活様式」を、出来る限り「気遣い作業」がいらないレベルまで作り込んでいくプロセスは、既に日本中で開始されています。

「お上」がある程度の方針しか示さなくても、「巣に属する個体全体で本能的な集合知を発揮するアリの集合体」のように構成員全体が知恵を出し合って現地現物レベルで磨き上げていくのは私たち日本人の「美点」と言って良いでしょう。

おそらく「経済再開」になると、まずは「ある程度は対策しつつもとりあえずやってみる」ことが必要な段階が来ます。普通の飲食店とかイベンターとかいうレベルで、完全な防護策を最初から考えるのは難しいでしょうしね。

そしてチラホラとまた感染者は出てくるでしょうが、それが「オレンジの線より下」(クラスター対策能力以下)であるなら、まあ多少そういうことあってもOKだよね、という安心感を自分たちで持てるようになるはずです。

そして感染者が出るごとにそれを探知し、迅速に芋づる式の検査をして抑え込むと同時に、「どういう行動がリスクだったのか・どういう工夫をすればその“真実の瞬間”を最小コストで避けることができるか」を国民全員で深くリアルに知っていくことが大事です。

そうすれば今は「一律に全部ダメ」になっている行動のうち、「どの瞬間のどの行動」だけをやめさえすれば良かったのか…を徹底的によりわけて把握していくことが可能になります。

同時に、いろいろな業種ごとに「密」を出来るだけ避けつつもコスト構造を見直してなんとか黒字にするテクニックも、業界横断的な「勉強会」的なものを通じて徐々に開発されてゆくでしょう。

製造現場ではいまだ世界一レベルで私たちができていることなんですから、コロナ対策でもできますよ。

余談ですが、あなたが「ヤンキー層を敵視するタイプのインテリ側の日本人」だとしても、もしこういう連動関係をうまく動かせるようになれば、日本が学問分野にかけるお金だってバンバン増やせる情勢になりますよ。「科研費」を倍増させる程度のことは日本政府の予算の全体的規模感からすれば大きなことではなく、問題は「専門知と現場知のインタラクション」をちゃんとうまくフィーチャーできてないから、「現場知を崩壊させて欧米におけるトランプVS反トランプ的な社会の分断を起こさせないために、専門知を抑制さざるを得なくなっている」わけです。

つまり過去20年ほど、この「両者の連携」がうまく行っていなかったからこそ、日本においては自分たちの強みを崩壊から守るために「専門知」への締め付けもせざるを得なかったし、ある程度閉鎖的な空気で強権的な政権を維持しておく必要もあったが、今後はその連携を回復していくことで、専門知への真っ当な敬意とお金の手当も社会的合意が取れるように動かしていけるはずだということです。

連載の次回では、今回の記事で扱った「インテリとマイルドヤンキーの相互作用」という話をさらに深堀りして、なぜ日本では「専門知をもっと活用すべき」と主張するだけでは物事が進まないのか?トランプVS反トランプといった欧米社会の悪癖に陥らず、それを超える希望を生み出していくためには、日本はどうやって「専門知」を取り入れる体制を作っていけばいいのか?について書きます。

(次ページ:5:「助け合える国」日本へ!)

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