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「トランプが負けたら世界は中国に支配される」は本当か?「民主主義だってダメじゃん」をギリギリ回避するための日本的中庸思考【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(8)
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  • 2020.11.07
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「トランプが負けたら世界は中国に支配される」は本当か?「民主主義だってダメじゃん」をギリギリ回避するための日本的中庸思考【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(8)

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投票後数日のすったもんだのあげく、ほぼほぼ次期アメリカ大統領はバイデン氏という情勢になってきたようです。

日本のネット世論では、「トランプが負けたら世界は中国に支配される暗黒時代が来るのだ」みたいなことを真顔で主張する人がたくさんいて、それゆえ米国直輸入の色んな陰謀論がそのまま流布されていたりする状況なわけですが。

しかし、その態度は非常に「アメリカ頼み」すぎるというか、

必死に「アメリカの犬」になることしか自分たちは生きてはいけないのだという世界観

であるように私には感じられます。

「右」の人がそういう卑屈さを深いところで持ちすぎているから、「左」の人は国際情勢のリアリズムのへったくれもないようなやぶれかぶれの反米主義で吹き上がるしかない

…という戦後日本75年続いた不毛さの結晶が「トランプが負けたら日本は終わり」説なのではないでしょうか。

そもそも自分の国でもない選挙の結果で日本が「終わった」り「終わらなかったり」するという世界観自体がちょっと情けなさ過ぎませんかね?ということは、まず考えておくべき視点だと思います。

というわけで今回の記事では、今後少なくとも4年間続く「民主党アメリカ」時代に日本はどうやって自分たちの存在を世界情勢の中にねじ込んで主張していけばいいのか…という話をします。

倉本圭造

経営コンサルタント・経済思想家

1978年神戸市生まれ。兵庫県立神戸高校、京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む『新しい経済思想』の必要性を痛感、その探求を単身スタートさせる。まずは「今を生きる日本人の全体像」を過不足なく体験として知るため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、時にはカルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働くフィールドワークを実行後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングプロジェクトのかたわら、「個人の人生戦略コンサルティング」の中で、当初は誰もに不可能と言われたエコ系技術新事業創成や、ニートの社会再参加、元小学校教員がはじめた塾がキャンセル待ちが続出する大盛況となるなど、幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。アマゾンKDPより「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」、星海社新書より『21世紀の薩長同盟を結べ』、晶文社より『日本がアメリカに勝つ方法』発売中。

1:イデオロギーを横において情勢を見られるプロの話を聞こう

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今回の大統領選挙はアメリカでも過去最高の投票率となったらしく、内戦とか世界大戦とかがあった時代よりも高い関心を国民自身も持っていたし、世界中の、そして日本人の関心もかなり高かったですよね。

私は別にアメリカ情勢の専門家ではないので、今どういう状況なのかプロの話を聞きたい…と思って色んな人の発言を追っていたのですが、「アメリカ問題の専門家」っぽい人ですら何の根拠もなく

今回はトランプの(バイデンの)圧勝だ!

みたいなことを自分のイデオロギーに従って放言する人が多く(これは英語圏の書き手も結構そういう傾向があって日本だけの問題ではなさそう)、いったい誰を信じていいのやら?という感じでした。

ただ、マトモな学者さんとか、あとは「選挙の票読みのプロ」とかの人はイデオロギーに関わらず冷静に情勢を見極めていて、あまりにも「放言」しまくる人が多い時代に、少数の「本当のプロ」が目立つな…という状況ではありました。

普通の「学問」界で参考になったのはノーステキサス大学准教授で政治学者の前田耕さんの連続ツイートで(上記リンクからツリーを追うと読めます)、逆に「選挙の票読み“業者”さん」で勉強になったのは、政治アナリストの渡瀬裕哉さんという方が書いた『2020年大統領選挙後の世界と日本 “トランプ or バイデン” アメリカの選択』でした。

渡瀬裕哉さんはご本人の「イデオロギー」的には結構ヤバい人というか過激な保守主義思想を隠しもしない人なんですが、「それはそれ、これはこれ」として票読みをキッチリやって、それだけでなく色んな政治団体同士の相互力学を読み解いて、「どういう人事、どういう政策が実現していきそうか」を分析する手腕が冴え渡っていました。

「プロ」と「そうじゃない人」をこういう状況で分けるのは、

「数字を並べる前にロジックがある」

ことだと私は考えています。今、パソコンをちょっとイジれば大量に「それっぽいグラフ」なり「分析」なりをひねり出せる時代なので、非本質的な数字の羅列を次から次へと読者に投げつけて「数字で分析された間違いのない意見なのだ」という「印象」だけを振りまく人がたくさんいる時代になってしまっているんですが。

「プロ」はその「数字の羅列」を投げつける前に「この問題を理解する上で最も重要なロジックは何なのか?」をちゃんと定義して、その上で整理された数字の比較をする。

最近では大阪都構想に関して事前に賛成派も反対派も「あまりにも非本質的な“数字”の投げつけ合い」をしていましたが、大事なのはその一個一個の数字が「どういう意味を持つのか?」を広い視野の中で理解することです。それについては最近書いたnote記事「SNSで嫌われがちな大阪維新の会が地元では安定的に人気な理由・・・都構想住民投票は、些末なプロパガンダ合戦でなく大きな方向性の議論で決めてほしい。」が好評だったので良かったらどうぞ。

新型コロナウィルスなどの問題に「物理学者」がしゃしゃり出てくるといきなり「まず人体が完全な球体であると仮定する」みたいな前提を置いてしまう…みたいなジョークがあるんですが、渡瀬裕哉さんの本を読んでいて思ったのは、その「“球体に丸める単純化”をする前の部分」こそが現実世界ではすごく重要なんだなという視点でした。

例えばアメリカ大統領選挙の「仕組み」を理解せずに漫然と丸まった支持率の数字を見ていても意味はなく、少なくともまずは勝敗に影響を与える激戦州と事前に大体の結果が見える州の分析をそれぞれをちゃんと分離して、一つずつに適切な数字を引っ張ってきて論じる必要がある。「ロジックが先」にない「数字」をいくら大量に投げつけても意味はないわけです。

「民主党アメリカ時代」において日本が取るべき道を探るには、その「イデオロギー的に“球体にまるめて”しまう」前のディテールを読み解いて、そこから生まれる力学をちゃんと利用していくことが重要です。

次ページ:上院・下院・大統領の「トリプルブルー」にはならなかったことに注目するべき

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