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「自民党は特権階級」「医療崩壊はウソ」社会を混乱させる陰謀論、免疫力をつけるにはどうすればいい?【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(11)
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  • 2021.02.01
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「自民党は特権階級」「医療崩壊はウソ」社会を混乱させる陰謀論、免疫力をつけるにはどうすればいい?【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(11)

2:「右VS左」から「現実派VS妄想派」への対立構図の変化に持ち込んでゆく

「左右それぞれの党派性」が力を持つのは、簡単に「正しい俺たちVS邪悪なアイツら」的な構図に持ち込めてしまうからだ…という分析がよくなされます。

私は、社会を陰謀論の蔓延から救うには、毒を持って毒を制するというか、私たちも積極的に「俺たちVSアイツら論法」で対抗していくしかないと思っています。

最近SNSで以下のようなことをいろんな人が言っているのをチラホラ見るんですが(すいませんが誰がオリジナルかはわかりません)、

これからの時代は、政治的立場の違いよりも、リアリスト(現実派)かドリーマー(妄想派)かの違いの方が大きくなっていく

つまり、

「ネットで俺は真実を知った!マスゴミが言ってるのは全部ウソだ!」という“ドリーマー(妄想派)”さんたち

と、

「まあ政治的立場はそれぞれだけど事実関係はこういうことだよね」というリアリティへのグリップを一応持っているリアリスト(現実派)さんたち

の間の分断の方が、「政治的立場の違い」よりも大きくなっていくのではないか…という指摘でした。

リアリスト、ドリーマーという単純すぎる分類が個人的にはあまり好きではない(本当に“現実派”であり続けるためには一種“ドリーマー”と呼べるぐらいの熱意が必要だったりしますし)ので、ここからは

「現実派」VS「妄想派」

という用語でこの対立を表したいと思います。

私は、「この情勢変化」は基本的に希望への道だと考えています。

つまり、「左右の党派争い」がSNSで紛糾して果てしなく現実認識が空論化していく流れを止めるには、「現実派VS妄想派」という“新しい党派争い”に置き換えていくことが重要」なんですね。

右でも左でも、「今までは仲間に見えていたけど、ちょっとアイツラとは一緒にされたくないな」という感情が満ちてくることで、「右でも左でも現実派寄り」の人たちが一箇所に集まって「新しい味方」を見つけてスクラムを組めるようにしていくことが、社会が「陰謀論」に対して”“免疫力”を発揮していくために大事なことなのです。

その事を、以下では私が7年前ぐらいから著書で繰り返し使っている図を使って説明します。

3:「言論の場のカーブ」をM字から凸型に持ち上げていく

以下の図では、横軸が左に行くほど「改革派な方向で過激」、右に行くほど「保守派の方向で過激」な意見であることを表し、縦軸がその意見の「社会の中でのコンセンサス(同意)の集めやすさ」を表しています。

特に最近の“分断”が問題な社会においては、以下のM字のような形になっています。

社会が「現実派VS妄想派」でなく「左VS右」が重要な状態にあるとき、

「敵陣営に属する人間が言っているまともな意見より、味方陣営に属する人が言っている、まともそうに見えて荒唐無稽な意見の方を徹底的に褒めたい」

という原理でみんなが動くことになりますよね?

そうすると、まああまりにも極論すぎて見るからにバカバカしい意見が広く共有されることは少ないので、図の左端、右端に行くにつれて曲線は下がってきますが、問題は図中で「原爆解」「ホロコースト解」と書いた部分に、「現実的にあまり良いとは言えないが物凄くコンセンサスを取りやすい点」が2つできてしまうことなんですね。

なぜ「原爆解」「ホロコースト解」と呼ぶのか…については20世紀の人類の歴史とイデオロギー対立の関係に関わる深い話があるので、ご興味があれば去年書いた私の著書『「みんなで豊かになる社会」はどうすれば実現するのか?』を読んでいただけるとありがたいのですが…

とりあえずは、以下の2点を覚えておいてください。

・「ホロコースト解」の特徴は、「そのままで行くと完璧とは言えないが6~7割ぐらいの点数が取れる。しかしその犠牲になる役割の人にとっては辛い道」であるということ。

・「原爆解」の特徴は、「その理想主義的な目論見どおり多くの人の連携を最適に取れればとても良い案になりうるが、完全に連携が取れないと目もあてられない混乱に陥る可能性がある危険な道」であるということ。

ここまで書くと、わかる人には現代社会の、あるいは歴史上のいろんな問題におけるいろいろな問題について「ああ、そうそう、こうなるんだよねえ」的な連想がアレコレ働きだしているのではないかと思います。

結局「一番現実的で良い案を、広い連携を取って一歩ずつ進めていく」という、この図の「中央」の部分に合意形成をするのは非常に難しくなるわけで、そこを「合意形成のデスバレー(死の谷)」と呼ぶことにします。

こういう分断が定着すると、「陰謀論」を振りまく人が増えます。それはつまり、「現実的で意味のある提案」よりも「いかにかっこよく“敵側の邪悪なアイツら”をこき下ろすことができるか」という基準でみんなが必死に中身のない意見を放言しまくるからですよね。

一方で、先程の「M字分断」の図に対して、「理想はこうあってほしいよね」というのが以下の「凸型の図」です。

真ん中に安定した「凸」になっている部分があって、「立場は違えど現実的にはこの範囲だよね」という共有感覚が安定しているので、どちらの側も「弱み」までもちゃんと見せあいつつ意見を持ち寄り、具体的な対策を練り上げていくことができます。

かといって「異端的な意見」が排除されているわけではなく、両端に「シグナルとしての異端者」と呼ぶべきゾーンで一度「ある程度共有しやすい盛り上がり」が存在する。

大事なのは、

・「真ん中の凸」部分に参加している「保守寄り」の人は、「右のシグナルとしての異端者」たちに心理的共感は一応持っていて動向をフォローしている…という「地続き」の人間関係を維持すること

・「真ん中の凸」部分に参加している「改革派寄り」の人は、「左のシグナルとしての異端者」たちに心理的共感は一応持っていて動向をフォローしている…という「地続き」の人間関係を維持すること

です。

異端者が考えることは人類社会にとって非常に重要なヒントになりえることです。が、異端者は社会の実情がよくわからないからこそ異端者なので、そのままでは全然具現化できない無理筋の意見になっていることもよくあります。

この「凸」部分と「異端者」の関係は、聖書の有名な言葉でいうと

「光は闇の中に輝いている。しかし闇は光に打ち勝つことは決してなかった」

…みたいなバランスが保たれていることが重要なんですよね。

「凸」部分が安定的に共有できているほど、「異端者」の意見をヒントとしてどんどん取り入れてブラッシュアップしていくこともスムーズにできるようになる。

「凸」部分が安定的でなくすぐに「M字」に分断されていってしまう危機にさらされていると、社会が現実性を維持するために「異端者」を抑圧せざるを得なくなる。

逆に言うと、「異端者」さんも「俺は社会に理解されないけど真実を知ってる男だぜ!」的に気楽に信者さんたち相手に放言しまくっているうちが花なんであって、自分の意見が国全体社会全体に強烈に共有されて現実的責任を負うことになってしまうと、ちょっと彼ら本人も困ってしまう事が多いでしょう。

「無責任に放言する限りにおいて真実の一端を捉えることができる才能」を持つ人たちを、「適切な距離感」で社会が活かしていくことが、この「凸型のグラフ」では可能なわけですね。

では、ぜひこの「凸型」状態に日本を、あるいは人類社会を持っていきたいですよね。どうすればいいんでしょうか?

実は、「M字分断」化された社会から「凸型」への以降において、「陰謀論の蔓延」は産みの苦しみ的に意味があることなんですよ!

次ページ 4:「陰謀論の暴走」が「新しい味方との出会い」をもたらし、対立構図を変化させる

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