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「自民党は特権階級」「医療崩壊はウソ」社会を混乱させる陰謀論、免疫力をつけるにはどうすればいい?【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(11)
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  • 2021.02.01
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「自民党は特権階級」「医療崩壊はウソ」社会を混乱させる陰謀論、免疫力をつけるにはどうすればいい?【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(11)

4:「陰謀論の暴走」が「新しい味方との出会い」をもたらし、対立構図を変化させる

もう一度、さっきのM字分断の図と凸型の図を並べてみます。どうすればM字から凸型への移行が可能になるでしょうか?

まずこの「M字」の図を見ていると、「原爆解」「ホロコースト解」に今は集まってしまっているそれぞれの人達が「分裂」して…。

その分解した「それぞれ」の半分が「中央に集まる」組と、両端で「シグナルとしての異端者」に分かれることで、「凸型の安定」に変化していくんじゃないか?というイメージが湧きますね? 何度か図を眺めながら、“M”にある2つの凸が、分裂して“真ん中”と”“両端”に分かれるイメージをまずは図形的に思い描いてみてください。

さて、上の2つの図をイメージしながら最近のいろいろなことを思い出してみましょう。

「M字の2つの凸」の内部で、「内部抗争」が増えてきていませんか?

「右の凸」の中では、「いまだにアメリカ大統領選挙の陰謀論を真剣に論じる人たち」と「それにはさすがについていけない」という層の分断と罵り合いがかなり激しくなってきていると聞きました。

「左の凸」の中の内部抗争は多種多様ですが、たとえば、「自民党政権がやることなすことには全部反対して逆を主張するのが自分の使命」みたいな人たちと、「専門家会議や医療関係者が言っていることにはまずはちゃんと耳を傾けて、その上で判断しよう」という人たちとの間の分断は結構チラホラ見るようになってきました。

結果として、「政府と一緒に働いている専門家」を一緒くたに「ケガレた存在」として「御用学者」と切り捨てるような思考停止にはついていけないぞ…という層が、「M字の左の凸」の内部の分断を徐々に産みつつあるでしょう。

7年前ぐらいから、私は「いずれそうなるから辛抱しよう」と言い続けてきたわけですが、やっとその入口ぐらいまで来ているのではないかとほっとしています。

読者のあなたがさきほどの2つの図の「どこ」にいる人なのかわかりませんが、「M字分断の2つの凸」の内部にいるな…と感じているのであれば、積極的にバンバン“内輪もめ”に油を注いでいきましょう。

そうすると、先程書いたように

「右VS左」の分断よりも「現実派VS妄想派」の分断の方が大きくなってくる

わけですね。

俺は根っからの保守派だ!リベラルなんて大嫌いだね!しかしいまだにトランプが勝ったと思っているような人たちとはちょっと一緒にやっていけねえぜ

となった時に、隣を見るとふと、

私はリベラルな人間です。人類の良識と普遍的精神を信じています。しかし、当局がやることなすことすべてに反対することが自己目的化しちゃって、普通に考えてマトモな政策ですら「この御用学者!」「あの悪魔の自民党政権の政策を支持するのか!」とか糾弾しはじめる人たちとは最近非常に心理的距離を感じるようになってきました

みたいな人がいて、

「あれ?実は俺たち話が合うんじゃ…??」

みたいな発見があるといいですね。

自然にまかせていても徐々にそういう流れは起きていくでしょうけど、この記事の「M字から凸型へ」の図をイメージしながら、積極的に

「政治的立場は違えど“この程度”は事実として共有した上で話せますよね?」といった常識

を再生していきましょう。

決して「ありとあらゆることで合意」する必要はありません。

「凸型のグラフ」は「凸型派」というマジョリティが唯一の“党派”になることではなくて、あらゆる個人の自然な気持ちを一切の忖度なく放出していった時に、そのあたりに「安定的に共有される領域」が自然に生まれるように持っていくことを目指しているわけですね。

5:具体的な「コロナ」の話で考えてみると…

さて、ここまでの話を過去一年間の日本のコロナ対策の混乱っぷりを思い出しながら、もっと具体的に「どうすればよかったのか」について考えてみます(この記事はすでに長くなってきたので、“コロナ問題”に関してもっと深堀りする記事は別記事に切り出しました。ご興味ある方はこちらをどうぞ)

ダメだったことばかり取り上げても気が滅入るので、まずは先程の「反ワクチン陰謀論をスクラム組んで抑え込めた話」と似た感じの、「最近この点はなかなかいいぞ」という話からします。

たとえば下図のように、昨年末ごろには「欧米よりも圧倒的に感染者数が少ないのになぜ医療崩壊するのか?」という課題について、いろんな人がいろんなことを言いっぱなしになっていたことがありました。

しかし昨年末ぐらいから、「どうすれば医療キャパシティを増やせるのか」についての具体的な提案・調査・吟味が、メディアに増えてきましたよね。

普通に民放のニュース番組でも長野県松本市を中心として行われている「松本モデル」などが紹介され(TBSのYouTubeチャンネルにも動画がありました)、

・地域全体で連携してコロナを診る病院とコロナを診ない病院を振り分け、対応できるスタッフを一箇所に集めてキャパシティを増やす

・回復期の患者がいつまでも重症患者用の設備を埋め続けないように退院基準を緩和し、「回復期患者を専門に診る病院」を作ると良い

…といった「具体的な方法」がちゃんと共有されるようになっていった。

日本人は「すでにある縦割りの組織の外側」と柔軟に連携するのが苦手な特性があるので、こういう「広域の連携の見直し」が必要なプランは「機運」が高まってこないとトップダウンではできないんですよね(本当は神サマみたいに優秀なトップがいればできるかもしれませんが、結局いつもマスコミが「本当に実現できるのか?」「こんなリスクがあるじゃないか!」と袋叩きにして潰そうとする結果になりますよね)。

でも最近は、こういう内容がちゃんとテレビのニュースでも掘り下げられるようになってきて、もっと「具体的な話」でキャパシティを増やしていけるようになってきている。

もちろん、この問題についても、延々と陰謀論を言い続けている人は今でもいますが、大事なのは「具体的な対話がちゃんと進展すれば、陰謀論を押しのけて行くことが可能になる」という点です。

以下のような「対話」の中で「Cさん」の居場所がだんだんなくなっていくような感じ…にできればいいわけですね。

A「民間病院じゃコロナを診てないから、むしろ暇になってるとこもあるらしいじゃない。それで医療崩壊とかっておかしいよね。なんとかもうちょっと連携できないの?」

B「医者もその他スタッフも専門っていうのがあって、皮膚科のお医者さんが明日から重症の肺炎患者を診ろと言われても無理があるんだよね。だから病床があればいいってわけじゃなくて」

C「そうだ!私たちは団結してスガをやめさせなければならない!これは人災だ!自民党政権のような、人間の尊厳を尊重するというマトモな文明人としての精神が根底的にないこの不幸な国では私たちは見捨てられて死ぬしかないんだ!」

A「なるほどねえ…とはいっても重症の患者ばっかりが病床埋めてるわけでもないんでしょう?この非常時なんだからもうちょっとなんとか融通効かせる方法ないもんかね?」

B「たしかに最近現場でよく言われているのは、すでに回復期に入って安定してきた患者さんも検査が陰性にならないから退院させられなくて、貴重な病床を埋め続けてるのが問題になってるんだよね。そこの基準を緩和してもらえれば、回復期の安定した患者なら診れる能力があるスタッフの数は重傷者をケアできる人数よりもっと多くなるはずだから、民間病院の協力も得やすくなるかもしれない」

A「なるほど!それいいじゃない。そういうニュースも最近は流れるようになってきたし、そしたら病院間連携の話も進めやすくなるよね。でも実際にそれをやるとしたら病院経営的にも難しい点があるとかいう話あるじゃない?政府がそのへん補填する事が必要だとしたら、どういう観点で仕組みを作る必要があるんだろうか?」

C「ドイツ首相メルケルの演説を聞いたか?ニューヨーク市長クオモのプレゼンテーションを見たか?あれぞ文明国のあるべき姿だ!それに比べて我が国ときたら…洗練された文明人の言葉を語ることができない戦犯国家の子孫である土人どもに支配されたこの地獄のような国で生きていく不幸は本当に…・・・」

A・B「ちょっとあんたしばらく黙っててくれないかな!」

C「…」

こういう↑「すれ違いを具体的な対話で超えていく」ことをしないと解決できない問題が、昨年から延々問題になっている「PCR検査を増やす・増やさない」みたいな話でも同じ問題があるわけですが…。

この記事は随分長くなってきたので、もっと詳細な話はnoteで「コロナ対策を軌道に乗せるのは陰謀論との戦いそのものである。」という記事を書いたのでそちらを読んでいただければと思います。

こういう「対話」がちゃんと行える環境をととのえて陰謀論を排除できるようになることは、混乱を続ける日本のコロナ対策をマトモなものに立て直すだけでなく、これからの国際社会の激動の中で自分たちならではの正しい戦略を常に選び取っていける「社会運営の技術」を私たちに与えてくれるでしょう。

次ページ 6:われわれはもっとできるはず!

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