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- 2021.02.01
「自民党は特権階級」「医療崩壊はウソ」社会を混乱させる陰謀論、免疫力をつけるにはどうすればいい?【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(11)
6:われわれはもっとできるはず!
ここまでに書いたような「対話」が、少しずつですが、いろんなメディア(民放テレビや新聞、ウェブメディアまで含む)と、マトモなSNSアカウントとの響き合いの中で徐々に実現できてきているのは、とても素晴らしいことだと思っています。
要するに、なんか今の政府のやり方がおかしいな、と思った時に、なんか「いかに日本政府がダメかを大げさに嘆いてみせて仲間と一緒に“いいね”を押し合う」前に、以下のような「魔法の質問」をするようにしたいわけですよね。
・現時点でそれができいない理由はなんだろう?・どうすれば実現できるのかな?
そうすれば、「対話」がはじまるんで、
・なるほど、そういう事情があるんですね!・じゃあこういう風にしたらどうでしょう?
という話も進み始める。
「対話の最初」は“素人側”は素人でもいいんですよ。素人ならではの視点ってのもありますからね。
さっきの「病院のキャパシティを増やす方法」の話でも、最初の頃は感染症法の二類だとか五類だとかいう分類でミスが起きているから起きている問題で、すべては厚労省の利権が悪いんだ…みたいな話が溢れていましたが、最初はまずそういうところからでいい。
でもね、マトモな知性がある人なら、実際の医療関係者側からの「反論」も読むようになるわけじゃないですか。そこで相手の話を一切聞かずに延々と「同じ話」をずっとずっと繰り返し続けるようになったらもうそれは「陰謀論」なわけですよ。
そういう「陰謀論」が暴走すると、本当に皮膚科のお医者さんも重症肺炎患者を診ろみたいな政策が出てきちゃったら困るから、現場の人は「過剰に保守的な見積もり」を意見として言うしかなくなるわけですよね。
でも今のように、主流メディアの中の人がちゃんと率先して、「医療リソースをもっとうまく活用するにはどうしたらいいか?」を具体的に取材してニュースで取り上げ適切に評価してくれるようになれば、安心して「もっとこういう手段も取れるはず」というアイデアを持ち寄ることも可能になってくるんですよ。
そういう「具体的な対話」が進めば、いまだに「二類が…五類が…厚労省の利権が…」とか同じことを延々と言い続けている人たちの声を抑え込んで、現実的な対処を次々と社会が取れるようになっていく。
ここで今の日本でよくある一番良くない例が、単にただ、「そういう制度上のすれ違いがどこにあるのかを具体的に考える」べきところで、今の日本でよくある一番良くない例が
やっぱり日本は人間の尊厳や科学的知見の大事さについて尊重する文化がないからダメなんだ!
…的な「唐突にバカでかい主語の文明論」とか、
やっぱり自民党政府は自分たちのお友達しか助けるつもりがないんだ!
…的な「これこそ陰謀論」みたいな話をぶち上げて内輪でキャッキャ騒ぐことなんですよ。
7:「望月衣塑子型陰謀論」は諸悪の根源と言っていいぐらい
その流れで最近、ほんとうに良くないと思うのが、名前出して悪いですけど望月衣塑子さんのこういうツイートとかなんですよね。
独は、緊縮財政を進めてきた結果、有事に大きな財政出動ができる。
— 望月衣塑子 (@ISOKO_MOCHIZUKI) January 6, 2021
アベノミクスを進め、赤字国債を発行し続けた日本は、飲食店に一律6万円のみだ
英 営業停止の飲食店などに最大126万円支給
独 飲食店には、前年の売上最大75%を支給、賃料などの経費の最大90%を支援 https://t.co/ZHuTmbcPQ3
これ、日本の飲食店休業支援は「1日6万円」で、月30日なら180万円なわけで、ツイート中のイギリスの126万円よりむしろ断然多いぐらいだろ…という「明らかに間違っている」ツイートで話題になっていたので見かけたのですが。
そういう「単純な計算間違い」の話だけじゃなくて、ドイツの内容と比べても日本の飲食店の時短営業協力金は全然劣っておらずむしろ十分すぎるほどで、多くの小規模飲食店において普段の売上を補って余りある金額になっている試算も出されているぐらいなわけです。
日本のコロナ対策財政支援は国際比較してもそれほど小さくなく、むしろ倒産が普段よりも減ったぐらいの手厚さを出しているわけですよ。
…にも関わらず、というかそもそもそれ以前の単純な計算間違いのことも指摘されまくっているのに上記ツイートをそのまま放っておいているあたり、これはもう「アメリカ大統領選挙で勝ったのはトランプ」と吹聴しているアカウントと変わらないレベルの陰謀論と言っていいんじゃないでしょうか?
「選挙に勝ったのはトランプ」型の陰謀論は誰が見てもわかるけど、この「望月衣塑子型の陰謀論」は見た感じ(それをシェアする人間の気分としても)自分たちは頭が良い!と思い込んでいるので余計に問題が大きいと感じます。
もちろん今の対策が完璧なわけはありませんよね? 制度のスキマにこぼれ落ちてしまっている人たちもいるでしょう。制度がわかりづらくて利用されていない例もあるでしょう。そのあたりもっと改善していかないといけないところがあるでしょう。だからこそ……
今ある制度のどこがどう問題があるのか、実際どうしたらいいのか?それを掘り下げて取材して問題提起するのがジャーナリストじゃないんですか!!!???(怒)
それにそもそも、メディアがまずは「今ある制度」を周知することに協力してくれないと、政府がいくら頑張っても「支援」がちゃんと届かないままになってしまうじゃないですか。実際、せっかく用意したコロナ支援予算が「使いにくい」「わかりづらい」という問題点もあれど、ほとんど消化されていないものがあるという話が結構出てきていますよね。
ジャーナリストにしろ論客さんにしろ、テレビコメンテーターさんにしろ、評論家さんにしろ、新聞記者さんにしろ、例に出して悪いですが、上記の「望月衣塑子型陰謀論で大騒ぎをする」人が多すぎて、ありとあらゆる「対話」が断絶してしまっているのがここ最近の日本の大不幸だと思います。
結果として政府側も余計に「スキを一切見せられない」状況になっていってやたら高圧的な態度を取るようになり、さらにそれを見てリベラル派は絶望を感じて…というこの「卵が先か鶏が先か」問題について、「敵側」のせいにしてないでお互い自分ごととして考えていかないと!
「望月衣塑子型陰謀論」の一番良くない影響は、「ジャーナリストさん」がこういう事ばかりしていると、野党政治家がいくら頑張っても、「マトモな議論をすればするほど注目されない地獄」に陥るんですよね。
私は経営コンサルタント業の傍ら、いろんな個人と「文通」しながら一緒に人生について考えるという仕事もしているんですが、数年前まである野党国会議員さんがクライアントにいて、深く話してみると凄い見識も深くて、いろんな政策課題についてちゃんと自分で調べて知っているし、それを実行に移す時の難しさについても理解している人だった。これまでやや否定的なものとしてあった「野党政治家」のイメージを根底的に覆されるような出会いでしたよ。
だから「政治家個人」レベルで見れば十分な能力がある人は探せば結構いるはずなんですね。
しかし「有権者」のレベルが低いと…あるいは「メディア」のレベルが低いと、結局「敵か味方か」的な政局の部分しか周知されないので、拳を振り上げて「どうなっているんですか総理!責任取る気はあるんですか!」みたいにカメラ目線を意識しながら叫んで見せるだけでいい簡単なお仕事です…みたいなイメージになってしまうわけですよ。
8:「あらゆる問題が政治的対立に見える老害」たちから日本社会を取り戻せ!
とはいえ、さっき「危機感ゆえか昨年末ぐらいから主流メディアの一部が少し“覚醒した”ところがある」と書きましたが、コロナ問題が長引くにつれて、単に「政治的対立構図」にあてはめて「全部敵のせいにして騒ぐ」みたいな形“でない”報道が徐々に増えているように思います。
「あらゆることがイデオロギー的対立図式でしか見れないビョーキ」的な団塊の世代が徐々に引退してきて、(私は今40代前半なんですが)30代~50代ぐらいの人間が徐々に社会の中で重要なポジションを得るようになったことで、少しずつですが、ただ単に「敵のせいにして騒ぐ」だけでない「深い分析」がちゃんと報道の中でも見られるようになってきているのを感じます。
そういう風潮があれば野党政治家だってちゃんと意味がある仕事をやっていけるようになります。特定の党のことを述べると脊髄反射的に反発する人がいるかもしれませんが、たとえば最近たまたま国民民主党の玉木雄一郎代表が医療リソースの適切な役割分担と必要な施策について書いている「今の改正案では医療崩壊を防げない~欠けている2つの視点」というブログ記事を読んだら、凄くちゃんと考えてあって驚きました。(彼は50代前半ですね)。
玉木氏の普段の活動や国民民主党の政策について私は詳しくないので「支持者」というわけでも必ずしもありませんが、とりあえずこの件について言えば上記ブログぐらいの内容は当然の前提レベルになって、そこからさらに「対話」が進んでいけば日本社会が苦手な”縦割りを超える広域連携”もどんどん可能になっていくでしょう。
そうやって「気運」を温めるぐらいはメディアとSNSでお膳立てしないと、日本社会で実際の「縦割りを超える連携」とか絶対できませんよ。実際に仕事で人を動かす仕事をしたらわかるでしょう?
「批判だけでなく対案を出せ」というよくある話がありますが、いろいろな事情があって現段階の形になっている現実がある時に、「それを全く踏まえずに更地に理論的に完全な絵を描いてみせる」ような「対案」を出されても当局側は手のつけようがないわけですよね。
もちろん現在の案とは全然違う「対案」があってもいいですが、その場合は実現の道筋においてどういう問題があるのか…どうすれば乗り越えられるのか…ぐらいは先回りして検討するぐらいでないと。
政府・自民党が悪いと批判する「だけ」ではなく、「そういう考えうる問題点も先回りして検討する役割」をも、特にリベラル派が真剣に取り込むようになれば、野党政治家だってもっと本当の力を発揮できるようになるはず。その先に、今は夢のまた夢の「政権交代の可能性」だって、それが日本にとって本当に必要ならば見えてくるでしょう(この連載の編集者で“ド左翼”の神保氏に「そういう野党議員だっているんですよ!」と力説されたんですが、そりゃいるんでしょうけど、そういうちゃんとしてる野党議員を育てていけるかが、メディアや有権者のレベルにかかってるって話なんですよね)。
最近話題になっていた立憲民主党の枝野代表のインタビュー「今はちょっと支持できないです…枝野さんに正直な疑問をぶつけてみた」を読んでも、彼も「今のままでいい」とは全然思ってないみたいですしね。
改めて言いますが、今の日本は「自民党」に支配されているのではありません。
「どっちのサイド」にもいる、あらゆることが「イデオロギー対立」に見えてしまうビョーキな人たちに支配されて混乱しているのです。
これからは協力しあって以下の図のように…
私たちがジャーナリストさんに、ネット論客さんに、野党政治家さんに、評論家さんに、テレビコメンテーターさんに聞きたいのは、本当はこういうこと↓であるはずです。
・今の制度のどこに欠陥があって、それはどういう事情でそうなっているのか?・それを改善する方法は? それが今できていない理由とその解決策は?
そのためにはまずあなた個人が、そういう「敵を攻撃して溜飲を下げるのでなく、リアルな質問をする」ように心がけましょう。
「あらゆることが政治イデオロギー対立に見えるビョーキ」の団塊世代から主導権が下の世代に移り変わることで、いろんなメディアも徐々に「覚醒」してきている兆候ぐらいは見えています。もしあなたが「メディア業界の中の該当世代の人」なら、「団塊世代が牛耳っていた時代とは違うやり方」をもっともっと勇気を持ってやってみてください。
「メディア情報の受け手」のあなたは、そういうメディアの新しいチャレンジを見つけたら積極的にシェアして褒め倒してアクセスを集めてあげましょう。
そういう「個人の努力」の結果として、
社会の対決軸を、「右VS左」から、「現実派VS妄想派」へと転換していく
ことができれば、「言論共有カーブ」が凸型に立ち上がってきて…
日本社会は嘘のように「マトモな理屈が縦横無尽に通る国」にできますよ。
こういう「知的な対話」が縦横無尽に社会内部で行えるようになれば、「学問的なインテリ世界とそれ以外」が絶望的に分断されてしまっている欧米社会の行き詰まりをも打ち破って、人類社会が中国型の権威主義の優位に飲み込まれずに済む防波堤に日本がなることもできます。
FINDERS連載の前回記事で書いたように、20世紀に米ソ冷戦時代の日本が「2つの極端なイデオロギーに挟まれる」ことでその間で「本当の実質」を追求することで栄えたように、21世紀の米中冷戦時代にも、「2つのイデオロギーにイッちゃってる人たち」に挟まれることで「本当の実質」をひたすら見つめて行動できる繁栄の道を見つけることが、「私たち日本人の禅的本性」を活かす道として見えてくるはずです。
危機はチャンスです。立場を超えた「マトモな対話」ができる人間が率先してリーダーシップを取っていき、「イデオロギーというビョーキ」の人たちから日本社会の主導権を取り戻していくことで、この混乱を乗り越えていきましょう。
私たちならできますよ。
また、この記事で書いたような「まともな対話」さえできれば、削りすぎてもう科学立国など風前の灯だと批判されまくっている日本の学術予算だって簡単に増やせる余地はあるはずだ…という記事『『日本の学術会議予算は実は簡単に増やせる』という話』も書いたので興味のある方はぜひどうぞ。実際には、「学費払ってもらったらウチ破産するのかな?」レベルじゃなくて、「あちこち節約すれば十分出せる額なのだ」ということを知ることから、「まともな対話」は始まります。罵り合ってる場合じゃありません。
感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、 私のツイッターにどうぞ。
連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。
この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、『みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?』」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。特に今回の連載記事の内容が「そのままもっと深く」書かれているといって良い本で、「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。
また、記事中に少し書きましたが、私は老若男女色んな個人と「文通」をして人生を考える…という仕事もしており、これはいわゆる「サロン」じゃない一対一の文通なんでほんとビジネス的には無茶なんですが、最近やはりこれが自分が凄く楽しいこと、やりたいこと、ライフワークだな…と感じてきているので、もう少し宣伝してみようかと思っています。日本に住んでいる人も海外に住んでいる人も、都会の人も地方の人も、お金持ちもまあそうでない人も、普通のサラリーマンも政治家さんも若い学者さんも篤農家のおじさんもバブル世代のお姉さんもいます。興味があればこちらから。今を生きる色んなタイプの個人と友達になって色々と話せたらと思っています。