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アフガン情勢は「アメリカ衰亡の象徴」ではなく「中国の野望を封じ込める好機」を示している【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(20)
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  • 2021.08.20
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アフガン情勢は「アメリカ衰亡の象徴」ではなく「中国の野望を封じ込める好機」を示している【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(20)

7:旗幟鮮明に自由主義を擁護せよ!

Photo by Shutterstock

過去の文化大革命やクメール・ルージュ、そして最近ではISIS(イスラム国)ですら「反米の何かであればどんなものでも褒めずにいられないタイプの左翼型知識人」がそこにユートピア幻想を押し付けて「アメリカの時代は終わった!」と主張しまくっていた現象は今回も起きるでしょうし、その情勢を利用して中国政府が「世論の誘導」を仕掛けてくるでしょう。

しかし、私たち日本人が今大事なことは、そこで絶対に「そちらがわ」になびくことなく、アメリカや台湾、オーストラリアやインド、そして欧州など(可能なら韓国も)と協調した「自由で開かれたインド太平洋」的な国際協調圧力を維持する、

「旗幟鮮明に自由主義を擁護せよ」

という態度です。

前述の福島香織氏の本にも何度か出てきたこの「旗幟鮮明」という四字熟語は中国語圏において非常に政治的な意味合いを持っており、経済の改革開放に伴って言論も自由化に向かうはずだった中国において、中国共産党の機関紙「人民日報」が1989年4月26日に

「旗幟鮮明に動乱に反対せよ」

という社説を出して言論弾圧に舵を切り、それが天安門事件を引き起こすきっかけとなった事件としてウィキペディアに単独の項目があるほどなんですね。

「日本切腹中国介錯論」を現代化し「中国切腹日本介錯論」を基本とするだけでなく、この「旗幟鮮明に動乱に反対せよ」を「旗幟鮮明に自由主義を擁護せよ」に置き換えるのも歴史に学ぶ我々の取るべき態度です。

まずは拡大初期のヒトラー(と熱狂するドイツ国民)を宥和政策で勘違いさせてしまったようなことが決して起きないような「鉄の連帯」を維持し、明確なシグナルを発して戦争で予想されるコストを膨大にしておくことは、戦争回避のための最も重要な最優先事項と言えます。

8:項羽と劉邦作戦

しかし、ここからがもっと「日本ならではの貢献」と呼べる部分があります。

「とにかく戦争を回避」するためには「自由で開かれたインド太平洋」的な国際協調によって「中国の次の覇権を目指す野望」を抑止することは非常に重要ですが、これだけだとそこにある「火種のエネルギー」の圧力を逃がす道が見えてきません。

そこで、日本としては、「陣営的には旗幟鮮明に自由主義側に立つ」ことを明確にしつつも、先程の「酒を酌み交わしてわかりあう」的なレベルにおいて、「欧米側」と「非欧米側」の架け橋となることが求められるでしょう。

なんにせよ、アメリカ型の「政治改革圧力」が、その社会の伝統や人情を「前時代的な抑圧的存在」と断罪しまくるために余計な反発を引き起こしていることは言うまでもありません。これは非欧米国だけでなく欧米諸国内においても同じ現象があちこちで起きています。

「自由主義と人権や平等の制度」を一歩ずつ整備していくことに反対する人は、日本社会にはほとんどいないはずです。

しかし、その過程で伝統的な共同体やそこにおける考え方を「敵視」し断罪しまくるようなモードが過激化すると、社会が真っ二つに引き裂かれてしまい、場合によってはタリバン的反動さえ生み出しうる、という現実的な可能性をちゃんと理解してその上でどうすれば「欧米的理想」と「非欧米社会の実情」を現地現物に溶け合わせることができるのか…がこれからの時代の最大の課題と言えます。

「陣営対立」的には旗幟鮮明に「アメリカ型」に立ちつつ、その「欧米的理想にのしかかられて自分たちの伝統を否定された気持ちになっている層」の「気持ち」もちゃんと理解できることが、これからの時代の日本の重要なユニークネスとなるでしょう。

日本には伝統的に、イスラム社会の奥底まで入り込んで「同じ目線」を共有するような人物が出てくることもよくあります。たとえばまさにアフガニスタンでは故・中村哲医師の例がありましたね。もっと過激な例ではイスラエルで1972年にテルアビブ空港乱射事件を起こした日本人グループの例もあるでしょう。

中村氏は上記リンクの日経ビジネスインタビューの中で、タリバンについてあまり否定的なことは述べていません。むしろそういう「民衆の伝統的なあり方」を否定しないかたちで説得し変化させていくことの重要性について述べており、こういう要素は「欧米人」からは出てきづらい要素でしょう。

ここまで「反米ならなんでもいいという左翼的ロマンチシズムの弊害」について重ね重ね述べてきましたが、しかしこの点においては、「筋金入りの左翼的日本人」の、イスラム社会への共感みたいなものも大事になってくるはずです。

右翼的な人でも、「自分たちの伝統に対して上から目線な欧米人がムカつく」レベルの「感情」を共有することはできるでしょう。

私たち日本人が、自分たちの社会の中で、「欧米的理想の上から目線ってムカつくよね」レベルの感情を無理やり切断することなく、「そういう気持ちってわかるよね」感を維持したまま、実際の細部の制度においては一歩ずつ着実に色々な「欧米的理想」を実現していく道を歩むことは、それがそのまま真っ二つに引き裂かれた人類社会を粛々と縫い合わせていく希望の光となるのです。

そうやって

・「陣営」としては「旗幟鮮明」に自由主義を擁護する「ムチ(ハードな対策)」と、

・「気持ち」の面で欧米的理想にのしかかられている側の反感と、それゆえの漸進的に両者をすり合わせる重要性について体現していくことを「アメ(ソフトな対策)」とする

…そういう「二正面作戦」のことを、私は「項羽と劉邦」作戦と呼んでいます。

以下の図は香港情勢が緊迫していたころに作ったものですが…

もう香港は取り返しのつかない情勢にまでなってしまっていますが、あくまで国際協調の中で、中国の野望をくじき、新しい国際社会の安定を導いていくために、日本が果たすべき役割は大きいです。

決して政府批判を口に出せないので一枚岩に見えていますが、習近平路線の強権性を快く思っていない中国人は明らかにいます。そして、先進的な民主主義国としてそれに対抗する台湾の例もありますし、国際的な華人ネットワークの中にも習近平政権への反発を強める層がいるでしょう。彼・彼女らとの連携を深めていくことはとても大事なことです。

特に、今まで自由放任されていた経済分野にまで習近平の強権路線がおよび始めた現在、近い将来経済的パフォーマンスが低下すれば、「民衆を食わせられない皇帝に存在価値はない」という彼らの本能的直接民主制みたいなエネルギーが噴出してくることになります。

苛烈な項羽を最終的に寛容な劉邦が下して漢王朝400年の安定を築いた知恵で、中国の「自分でもコントロール不可能な野望」を抑止する情勢を作り出し続けることが、今後日本が「繁栄のボーナスタイム」を引き寄せるために重要な戦略です。

20世紀的な紋切り型の対立を超えて、「平和への本当の責任感」を持って道を切り開いていきましょう。

私たちならできますよ。

その「平和への本当の責任感」を果たすために、今まで繰り返されてきた「全部日本が悪いってことにして懺悔しておけばいいのになんでしないんだ」型のザツな総括を超える、「本来あるべき歴史認識問題の解決」について書いたnote記事がアップされますので、この記事に興味をもたれた方はぜひお読みいただければと思います↓

アメリカのアフガン撤退が日本にとって「繁栄のボーナスタイム」を引き寄せるチャンスを生み出し、アメリカ型の「ヒステリックに全方位を糾弾しまくる型のポリコレ(政治的正しさ)」を終わらせるという話。

今回記事はここまでです。

感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターにどうぞ。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。

この連載の趣旨に興味を持たれた方は、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、『みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?』」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、「20世紀的な紋切り型の左右対立」とか、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。


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