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アフガン情勢は「アメリカ衰亡の象徴」ではなく「中国の野望を封じ込める好機」を示している【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(20)
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  • 2021.08.20
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アフガン情勢は「アメリカ衰亡の象徴」ではなく「中国の野望を封じ込める好機」を示している【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(20)

5:「中国切腹日本介錯論」と「自由で開かれたインド太平洋」構想

外務省HPより、「自由で開かれたインド太平洋」構想の概要

蒋介石が必死の謀略で英米を対日戦争に引き込んだ当時、中国では「日本切腹中国介錯論」という考え方が提唱されていました。

これは要するに、

日中戦争において中国はまずとにかくあえて負け続けるべきだ。負け続けて日本に調子に乗らせれば「国際社会の敵」に仕立て上げることができる。そうすれば最終的に中国が勝つ。

という戦略です。これはまさに日中戦争期に「そのまま」実現したと言っていいでしょう。

一方で過去20年ほどの日本は、この「全く逆」をやり、

中国に負け続けることで調子に乗らせ、結果として「国際社会の敵」に仕立て上げるところまでは来れた

と言えるでしょう。

2012年に発足した当時の習近平政権は、太平洋戦争時のスティグマを日本に貼り付けることで「中国=善、日本=悪」という構図を定着させようとしていたことはよく指摘されますが、そんな「大昔の話」を持ち出すレッテル貼りよりも、現在の振る舞いの方が重要なのは言うまでもありません。

結果として、日本が提唱してきた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」的な枠組みの中にアメリカや台湾、そしてオーストラリアやインド、そして欧州の国々まで参加し、中国の膨張政策への「国際社会が協調したNO」を突きつけるところまで来れています。

中国国民を悪魔化する意図はありませんが、単純な勢力争いの問題として、「覇権国家」が入れ替わる可能性があるような拮抗状態になれば戦争の危機が増すことはよく知られています。

「イケイケ」状態になっている伸び盛りの国の世論エネルギーをコントロールすることが難しいからですよね。

ヒトラー時代のドイツの対外拡張において「早い時期に英米が協調した抑止政策に出ていれば戦争にはならなかった」と当のヒトラーが述べているのは有名な話です。

「次なる覇権国家を目指す野望」を暴走させつつあるような存在には、まずはちゃんと国際社会が協調して「NO」を突きつけ、「その野望はそう簡単には叶わない、多大な犠牲が伴うのだ」というシグナルを発しておくことは、本当の意味での「平和への責任感」だと言えるでしょう。

過去10年ほど、この「中国の野望」に対抗する国際的協力関係を築こうとする自民党政権の一貫した政策について、

お前は戦争がしたいからそんなことをするんだろう。中国が攻めてきたら俺が酒を酌み交わして止めてやるのに。

みたいなことを言う運動が結構もてはやされていましたが、結果として本当の「戦争を抑止する責任感」がどちらにあったのかについて、私たちは真剣に考えなくてはいけないでしょう。

しかし問題はここからで、「中国切腹日本介錯論」的な一貫した戦略で築いた現状を、単なる日本一国のエゴで使い尽くし、20世紀なかばのように実際に戦争になってしまっては最悪の展開ですよね。

この「現状」を本当の「平和」につなげていくために私たち日本人にできることは何でしょうか?

6:「自由主義陣営のキャスティングボート戦略」

これから日本はどうするべきか?

私は2014年末の段階で『「アメリカの時代の終焉」に生まれ変わる日本』という本を書いてこういう状況をある程度予想していたのですが、「アメリカの一極的支配」が終焉することは、日本にとってある意味で大きなチャンスをもたらすことになります。

これを私は「自由主義陣営のキャスティングボート戦略」と呼んでいます。

キャスティングボートとは、拮抗した2つの大きな勢力がある時に、比較的小さい第3位勢力の発言が強力に作用する情勢になることを表す用語であり、日本人にイメージしやすい例は公明党の役割が典型的でしょう。

対比的に述べると、

・「自民党単独の安定多数」がある時代には公明党の存在価値は小さい=アメリカが単独で世界を支配している時代には日本の存在価値は小さい

・自民党の単独安定多数が崩れた時には、政権維持のために公明党との連立維持が不可欠になり、公明党の発言権が高まる=アメリカ単独の世界支配が陰ってきた時には世界第3位の経済大国の発言権が大きくなりうる

…という状況だと理解して下さい。

2030年あたりを目処に、中国単独のGDPがアメリカを抜くことが予想されていますが、しかし「アメリカ+日本」のGDP総額を中国が抜くのは相当先であり、中国の少子高齢化などの問題を考えると永久にない可能性が高いです。

この状況は、アメリカから見て日本の繁栄を邪魔することはできなくなるし、中国から見てもぜひとも自分の側に引き寄せたい存在となっている、日本にとっての「約束されたボーナスタイム」になりえます。

平成時代の日本は、昭和の終わりに「世界一の金持ちになったのはいいが世界中からバッシングされて引きこもりグセがついてしまった」トラウマの中で右往左往してきましたが、令和の情勢は平成時代と全く違ってきていることに、私たちはまず気づくことが必要でしょう。

「平成時代」の言論は、「アメリカという強大な存在の影に隠れつつ暴発もしない」という非常に難しい情勢を維持し続けることが必要だったために、どこか自家撞着的な、国際的に見れば何の話をしているのかわからないような「空疎な左右対立」に浪費してしまったことは仕方がなかったことだと思っています。

これから先の令和の時代には、「自由主義陣営のキャスティングボート」を握っていける情勢が見えてきます。その時、平成時代に「何もしないということを真剣にやるために空費する議論」に疲弊した私たちの、いろんな学者や思想家、官僚や政治家、いろいろな実務家や、ネットで毎日戦わされる議論たち…の「真価」が問われる状況になります。

「空費する平成30年間」は辛かったですが、これからは、今までの立場の違いの罵り合いを超えた、新しいビジョンを描いていく仕事をそれぞれでやっていきましょう。

勢力均衡的なメカニズムから日本が活躍できる「舞台」は十分すぎるほど今後不可避的に整って行くことになります。1975年のサイゴン陥落以降、日本経済の黄金期が来たことは、単なる偶然ではないと私は考えています。

すでに、アメリカは「あと一歩」踏み込んだ働きかけを日本に期待している状況は明らかにあります。それに応えられるか、私たち日本人の真価が問われます。

「中国切腹日本介錯論」戦略に従い、「今何もしないってのがオレの覚悟だ(ジョジョのブチャラティのセリフ)」的に辛い時期を必死に耐えてきた平成30年間の鬱屈を晴らすような、「約束された繁栄のボーナスタイム」を堂々と演じる覚悟はできていますか?

とにかくまず第一に、その「繁栄のボーナスタイム」を引き寄せるために必要なのは、まずは明確に自分たちは「自由主義陣営」を擁護するのだ、という態度を明確にすることです。

次ページ 7:旗幟鮮明に自由主義を擁護せよ!

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