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「左翼の内輪受けドラマ」Netflix版『新聞記者』が褒められているうちは「小悪の玉突き連鎖」を止められない【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(27)
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  • 2022.01.24
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「左翼の内輪受けドラマ」Netflix版『新聞記者』が褒められているうちは「小悪の玉突き連鎖」を止められない【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(27)

5:「問題の大本」に遡って考えるべき

もちろん、さらに「問題の根本」に踏み込めば、官邸への権力集中が進むことで官僚が「政権の意向」を過剰に「忖度」するようになり、組織防衛の為に公文書改ざんなどに踏み込むほどになってしまっていたこと自体が問題なのだという言い方はできます(そこまでの権限の集中が日本国の機動的運営のために必要だというなら、安倍氏はそれに伴う責任としてもっと発言に気をつけるべきだったというのは全くその通りな批判だと言える)。

しかしさらに「根本」に踏み込むと、「なぜ官邸に権力を集中させる決断を日本国民はしたのか」という点と向き合わなくてはいけません。

それは1990年代ごろから、「決められない政治」は良くない、日本もアメリカのように二大政党が議論をして方向性を決めて、グダグダの漂流状態を脱して明確な指針を持って運営されるようにならねばならないのだ…という議論を右の人も左の人も参加してやってきた流れがあるわけです。最近よく批判される「小選挙区」制だってその意図で自分たちが民主主義的に決めて導入した制度なわけですよね。

そういう意図で、「権限を集中」した結果いろいろな問題が起きてしまった…というのが「モリカケ」の本質なわけです。

だからこそ、「官邸への権限集中」が問題だというのなら、議論が漂流して「決められない政治」に戻らないような方策について、「敵側が全部悪い」って言ってないでどちらの側も真剣に考える責任があるでしょう。

今のように「完璧な理想論だけを述べて具体的な積み上げをしない勢力」VS「多少の瑕疵はあっても強引に実現し、ついでにちょっとした利得を得る勢力」みたいな最悪の二択ではどうしようもない。

加計学園が選ばれた理由の中に「総理の友達」である要素が「一切」ないかといえば、数々の資料や証言からして言えないでしょう。

しかし、「実際の公務員獣医の不足問題」がある時に、親しい政治家の名前まで利用してアレコレの交渉を積み重ねて「実際にやると手を上げている人」がいる課題について、単にアイデア段階でしかない生煮えの理想論だけで、「公務員獣医の待遇改善や、別の医学部のある四国の大学に新規開設するべきだ」みたいな話をぶつけていてもしょうがない。

先日毎日新聞の記事で、昨年10月の選挙で落選した立憲民主党の辻元清美氏が、自分たちの反省として、以下の「三本柱」のバランスが取れていなかったことが敗因だと総括していました(下線部筆者)。

A:持続可能な社会・経済を実現するための具体的な政策を提示する

B:公平公正な政治を行うために政府を監視・チェックする

C:そして現場に出向き、国民の共感と参画を得る

「カケ」にしても、公務員獣医不足に対してちゃんと向き合って、Aのところで「カケ」案以上に良い解決策を自分たちの責任で練り上げることをちゃんとやっていれば、 Bのところで「カケ」が選ばれた経緯に問題があれば一発レッドカードで退場させられるし、その事にCの「国民の共感」も着いてくるわけですよ。

立民ともなれば年間68億円もの政党助成金をもらっているんですから、それこそ「お友達」のPR会社に大金を払ったりしてないで、こういう代替政策案作りにちゃんと資金を投じる余裕は本来あるはずです。左派メディアも「モリカケ」について報じる熱意の半分ぐらいで良いからそういう動きをバックアップしてあげてほしい。

日本の現状は、実際のニーズにかけ離れていても「こういうのがOK」とされた形をなぞるだけの試みに対して、日本中で少なくないお金が投じられ続ける不健全な状況は明らかにあります。

少子高齢化なのに私学助成金を貰う私立大学が増え続けるとか、空き家が大量に問題になっているのに節税目当てのアパートが乱立するとか、そういう「歪み」は確かに大量にある。

しかしこれは「アベという巨悪」がやってるんじゃなくて「小悪の玉突き連鎖」で止められなくなっているんですよ。「妄想の中の巨悪」を設定して「糾弾」すればいいんじゃなくて「実際の制度の細部の歪みをどう微調整すればいいのか」に手間とカネとエネルギーを徹底的に注ぎ込んで変えていくしかない。

今は「提案型野党になる」と言っても、出してくる「提案」が「今の日本の現状」とシッカリ向き合ったものではない、抽象思考先行のフワッとした理想論でしかないので支持者以外からは非常に「イタイ」感じになってしまっている。

本当に「自分たちの提案」に手間とカネとエネルギーをかけて作り上げて、その「成果」によって「自民党政権という現状追認型すぎるにしろ、それなりに国民から支持されているシステム」を「超える成果」を出してやるのだという気概が感じられない。

「加計学園」は一応は「地方の公務員獣医不足」という切実な現実の課題に向き合っているし、自分の責任で学校を運営しようと手を上げている存在ではある(その許認可を得るためにお友達関係を利用した疑惑はあるにせよ)。

それに対して、「生物兵器を作りたいんだろう!」みたいな映画で「対抗する」という精神がいかにも「内輪ウケ」にしかなっていないか、この記事のタイトルを見て「お前も安倍の犬か!」と脊髄反射的な怒りを覚えた読者の方にこそ、真剣に考えてほしいと思っています。

今回記事はここまでです。長い記事をお読みいただきありがとうございました。

この記事で書いたような「誰かのせいにして騒ぐだけの議論」を、いかに「具体的な問題解決」に振り向けていけばいいのか?について、対立を乗り越えてここ10年で150万円平均給与を上げられたクライアントの事例などを紐解きながら、経営コンサルタント&思想家の観点からまとめた新著『日本人のための対話と議論の教科書』(ワニブックスプラス新書)が来月2月9日に発売されます。

また2月9日までは、関連記事として、

・「罵り合い」ではない「具体的な解決」としての”平熱の愛国心”的な積み上げの重要性について、私のクライアントの製造業DXベンチャーの例から考察するこの記事

と、

「巨悪がいない時代」に必要な物事の考え方として、韓国ドラマ『イカゲーム』と日本ドラマ『今際の国のアリス』という、「同じデスゲームジャンル作品」同士の比較から考察するこの記事をお読みいただければと思います。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。

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