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ウクライナ侵攻で【憲法9条は死んだ】のか?「リアルなリベラル」に脱皮するための議論をしよう【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(29)
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  • 2022.03.04
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ウクライナ侵攻で【憲法9条は死んだ】のか?「リアルなリベラル」に脱皮するための議論をしよう【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(29)

4:今後の日本の役割は、ロシアをかばうことではなく『鬼滅の刃』的解決の道を示すこと

Photo by Shutterstock

「アメリカ的な秩序」が嫌いだからといって「ロシアの侵略」をやたらかばってみせたり、ウクライナはさっさと降伏するべきだなどと述べる言説が説得力を持つようになるのは明らかに良くないです。

なぜなら「この件」でのプーチンの行為が成功するということは、人類社会が「そういうことが可能である・やっていいことだ」という状況になってしまう、武力で言うことを聞かせることが可能な無法社会になってしまうことを意味するからです。

たとえば、今まことしやかに語られている「NATOの東方不拡大の約束をアメリカが破ったことがそもそも悪かったのだ」といった議論はプーチン大統領の都合の良い嘘であることが、慶應義塾大学の細谷雄一教授によって詳細にまとめられています。

こういう議論をよく知らずに拡散してしまうこと自体が、プーチン大統領の侵略に加担する行為になってしまうでしょう。

私も、今後さらに犠牲が増えるであろうウクライナの人を見るのは辛いです。「逃げたかったら逃げてほしい」という気持ちもある。

しかしそれは「軍事力のあるロシアが攻撃してきてるんだから、ウクライナは残念ですけど占領されて言いなりになるしかないですね」という残酷な突き放しにほかならず、彼らが民主的に選んだ政権として抵抗すると言っているのを他人が軽々しく否定すべきものではないはずです。

特に日本人はアメリカに占領されても「まあまあ善政を敷いてもらった」経験があるのでそこを甘く考えすぎている人が多い。

日本がまずできることは、国際協調の対ロシア制裁にちゃんと参加して、G7の一員なりに期待される役割をこなすことです。日本は日本人が平均的に思っている以上に実際には“結構な大国”なので、変にここで中立しぐさをするとプーチンを締め上げるためのロシア制裁に巨大な穴があき、結果としてウクライナの人をさらに苦しめることになるでしょう。

『鬼滅の刃』の主人公の炭治郎くんが、「鬼が鬼になってしまった理由」には慈悲の心を持って慮るけれども「人を殺す鬼」を斬ることには一切容赦はしないように、プーチン大統領の暴虐な野望を掣肘することに関しては一切容赦をしてはいけない。

しかし前者の「鬼になった理由を慮る」部分、つまり日本が「メタ正義」的に考えなくてはいけない重要な課題はもっと本質的なところにあります。

そもそも、実際に「アメリカ型の人類社会統治」が現場レベルで色々な問題を引き起こしており、それへの反発が渦巻いていることが、プーチンや習近平のような権威主義的人物の統治を温存させてしまう現象を生み出している。

つまり「アメリカ的秩序」がもたらす、特に「ネオリベ(経済市場原理主義)と過剰なポリコレ(政治的正しさ)の押し付け」という「二つの押し売り」が、当のアメリカ社会の中ですら国を真っ二つに割るほどの反感を生み出している結果、プーチン的存在が「痛快」だと感じる人がたくさんいる現状がある。

その「痛快と感じる人達の後押し」があるからプーチンは止められなくなる。

その「真因」が放置されたままなら、プーチンが倒れてもまた第二第三のプーチンが押しあげられて出てくるし、そしてその存在はさらに「核」を使うことを躊躇しない人物かもしれない。

この図も拙著『日本人のための議論と対話の教科書』からの図ですが、今の世界では「アメリカ的秩序の押し売り」と「それが現地社会の事情と合っていないことの反発」が押し合いへし合いになっており、しかし注射器の先に穴が空いていないので圧力が高まって最終的に戦争にまでなってしまっている。

この図を見れば、我々がやるべきことは「注射器の針先に穴をあけること」だと分かるはずです。

それはつまり、「アメリカ的な理想」を諦めないためにこそ、現実的な対処を積み重ねている人たちに空虚な理想論を押し付けて嘲笑するような議論を封じ込め、現地社会の事情に敬意を払い、紋切り型の罵り合いでなく「本当に変えていく工夫」を積み重ねていくことです。

そろそろ文字数がウェブ記事としては限界なのでここで詳細に語ることはできませんが、『鬼滅の刃』の特大ヒットは、単に「昭和時代的な古い体制の延長」でもなく、「平成時代風」に単にグローバリズムの流行に乗っかって「旧弊をぶっ壊せ!」と押し切るものでもなく、「資本主義の力を最大限活用しつつ、日本人が大事にしたい価値観やクリエイション現場の能力を最大限活用するエレガントな仕組み」によって実現しています。

(より詳細には、以下の記事で書いていますのでご興味があればどうぞ。医学部の女性入試差別を糾弾するだけでなく“その背後にある医療制度改革”にこそ議論を協力して向けていくべきだという話などもしています)

「ロシア的ならず者」問題の解決には、最終的には鬼滅の刃の大ヒットを生み出した「令和の仕切り」が必要

つまり、『鬼滅の刃』の特大ヒットは、「アメリカ型秩序の押し付け」でもなく「旧態依然としたその社会の惰性の延長」でもない「第三のオリジナルな解決策」をビジネス面でも追求してきたことによって生まれているわけです。

私はそれをメタ正義的な「令和の仕切り方」と呼んでいます。

こういう「アメリカ的正義の押し売り」と「現地社会の事情」を両方否定せずに両取りにできるメタ正義的な「令和の解決策」を自分たちで編み出していくムーブメントだけが、先程の二股の注射器の「針先」に穴をあけることができるのです。

「アメリカ的な理想に抵抗する存在を、いかにカッコよくSNSで罵倒してみせられるかコンテスト」みたいなものを無意味に持て囃しすぎることが、人類社会の逆側でプーチンというモンスターをどんどん肥え太らせるエネルギーになっている。

逆に「アメリカ的理想への抵抗」の背後にある事情を積極的に迎えに行き、メタ正義的な議論を引き出して新しい解決策を積み上げる文化を作っていくことが大事です。

それが機能し始めれば、人類社会に(アメリカや日本の中にすら)渦巻いている「プーチン的な存在が出てきて痛快だ」というエネルギーが蓄積していく「真の原因」の方から解決できる。

西洋と東洋の間で生き抜いてきた、何世代も前から欧米的理想に馴染んできつつ、「欧米文明に征服された側の反感」も我が事として理解できる私たち日本人こそが、その「真因」の解決によって人類社会の分断を乗り越える新しい希望の旗印を提示することができます。

プーチンという「鬼」を斬ることには一切容赦せずに国際協調圧力に参加しつつ、より本質的な「鬼になってしまう理由」の方には真剣に向き合って解決の道を探していくこと。それが私達日本人がウクライナのためにできることだと言えるでしょう。

(お知らせ)
ワンパターンで何十年と変わらない罵り合いだけが続く日本の現状を脱却し、「本当に社会を変える」ための有意義な議論をする方法について、私のクライアント企業で10年で150万円もの平均年収を上げることに成功した事例などを起点としながら、徐々に社会全体の大きな課題解決の論点整理にまで踏み込んだ本を先月発売しました。

日本人のための議論と対話の教科書

上記リンクで「序文(はじめに)」を無料公開しているので、この記事に共感された方はぜひお読みください。

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