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「不況を脱する仕組み」「インフレになる条件」って説明できる?有名予備校講師がゼロからわかりやすく解説
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  • 2023.07.20
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「不況を脱する仕組み」「インフレになる条件」って説明できる?有名予備校講師がゼロからわかりやすく解説

Photo by Shutterstock

職場の後輩から、あるいは自身の子どもから「好況・不況、インフレ・デフレって何が原因でそうなるの?」と聞かれて上手く答えられず困ってしまった経験はないだろうか。

頭の中では何となくのイメージが浮かんでいても、それを言語化しようとすると意外と難しいことは数多く存在する。

本稿では、東進ハイスクールや駿台予備校などで政治経済の授業を長年担当してきた清水雅博氏が、まさしく教科書的な、ベーシックな解説を行う。高校の授業でも習う内容ではあるが、基礎は何度振り返ってもムダにならないはずだ。

※本記事は7月1日に出版された清水雅博『今さら聞くのは恥ずかしい 大人のための政治経済入門』(徳間書店)の内容を再構成して掲載しています。

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清水雅博

予備校講師

東進ハイスクール・東進衛星予備校、駿台予備学校にて、「政治・経済」「倫理」「現代社会」「公共」を指導。年間1万人もの生徒が受講する超人気講師。政治と経済のメカニズムを明快に分析する論理的な指導にユーモアを含む授業は、受講生から圧倒的な支持を獲得。入試頻出ポイントや時事問題の本質を明確に示す情熱的な指導で生徒をグイグイ引き込み、難関大学への合格者はのべ30万人を超える。著書『政経ハンドブック』と『一問一答』は、政経受験者の80%が愛用しているといわれる大ベストセラー。ニュース時事能力検定(N検)の創設メンバーでもあり、検定委員を担当。YouTubeでは社会人・就活生・受験生に役立つ最新時事ニュースの解説動画や受験関連情報を発信。
YouTubeチャンネル「清水政経塾」
https://www.youtube.com/@ShimizuSeikeiJuku

そもそも物価・景気とは何か

私たち国民が最も関心がある経済といえば、物価・景気ですよね。

物価とは財・サービスなどの商品一般の値段の傾向性のこと。商品の値上がりが続けばインフレーション、値下がりが続けばデフレーションになります。

2022年2月には、ロシアのウクライナ侵攻が起こり、物価の上昇が世界的に問題となりました。このようにインフレが発生して物価が上がると、消費者の生活を直撃してきます。これまでもインフレが発生すると、どう物価を抑えるかが大きな政治的問題となってきました。

一方、物価が下がるデフレ局面では、消費者の生活は楽になるので消費者からの不満は直ちには噴出しませんでした。ただ、商品の販売価格が極度に値下ると、企業など供給者の儲けが減少して賃金の値下がりや企業の倒産が起こり、めぐりめぐって労働者の生活が圧迫されてしまいます。要は、極度のインフレ・デフレが問題なのです。

物価の動きは、消費者が商品を買う時の価格の動きを見る消費者物価(指数)、企業が商品を仕入れる時の価格の動きを見る企業物価(指数)の2つで計測しています。

一方、景気とは市場取引の活性化を示す言葉で、市場取引量が増えて活性化していることを好況、市場取引量が減って停滞していることを不況と言います。よくニュースで「不況」という言葉を耳にしますよね。結局、不況とは賃金、所得が下がり、皆が消費や投資を控え、市場取引量が縮小し、経済全体が元気ではなくなっている状態のことです。

ちなみに、市場取引量を示す統計は、広い意味での国民所得です。財・サービスの取引量は商品に支払われる対価=支払額で表されますから、国民所得は一定期間(通常は1年間)に市場を流れる流通通貨量を示しています。

国民所得の伸び率(%)(国内総生産=GDPの対前年度伸び率)のことを、経済成長率とも呼びます。この経済成長率が前年度と比べてプラスであれば市場取引量が増えているので好況、マイナスであれば市場取引量が減っているので不況と判断されるのが一般的です。

我が国では、1974年の第一次オイルショックの翌年、2008〜2009年のリーマンショックの時、2020年のコロナショックの時には、いずれも実質マイナス成長を記録し、深刻な不況に見舞われています。 

この時には、流通通貨量が減って国民所得が減少したので、需要が減って物価が下がり、同時に市場取引量も減って不況に陥ったのです。  以上とは逆に、流通通貨量が増えて国民所得が増加する時(経済成長率がプラスの時)には、需要が増えて物価は上がり、同時に市場取引量が増えて好況に向かうことになります。

結論から言えば、流通通貨量の増減が国民所得の増減を決め、景気と物価に影響を与えているのです。

物価・景気は流通通貨量で予測できる

物価・景気を決めているのは、現実に市場を流れる流通通貨量の増加、減少であることがわかりましたね。本書に掲載した

国内流通通貨量増加→インフレ→好況
国内流通通貨量減少→デフレ→不況

という公式を意識することで、経済の見通し・物価・景気の予測を的確にすることができます。

具体的に考えてみましょう。

・日本の輸出が減少傾向の中で、ロシアのウクライナ侵攻で輸入する資源や食料が値上がりしたとします。貿易収支は赤字基調となり、国内通貨量は減少しますので、デフレ・不況に向かいます。

・増税が決まったり、銀行の貸出が制限されて金融引き締めが行われると、流通通貨量は減少するので、デフレ・不況に向かうことがわかります。その場合、株価も下落することが予想されます。

・新型コロナウイルスの水際対策が緩和されて入国規制が緩和されると、訪日外国人が増加するでしょうから国内通貨量が増えて、インフレ・好況に向かうことが予想されます。

・オリンピックや国際博覧会(万博)が開催されれば流通通貨量が増えますから好況になり、株価は上昇するでしょう。

物価・景気予測はどうすればいいのか

政府と中央銀行(日本銀行)は景気・物価対策を日々行っています。物価・景気対策は、流通通貨量の調節(増減)によって行われ、インフレ・景気過熱の原因は流通通貨量の増加にありますから、その対策は極めてシンプルで、流通通貨量を減少させればいいのです。

例えば、物価が上昇してインフレが進行し、バブル期のように景気が過熱している時は、銀行が企業などに融資を行う際の貸出金利を引き上げて、借りにくい状況を作れば解決します。逆に物価が下落してデフレが深刻化している時やバブルが崩壊して景気が停滞している時は、銀行の貸出金利を引き下げて、借りやすい状況を作れば良いのです。

2022年のウクライナ侵攻で世界的インフレが進行したときに、アメリカの中央銀行(連邦準備制度理事会=FRB)や欧州中央銀行 (ECB)が金利を引き上げたのは、インフレ対策を優先したからです。その一方で、日本銀行は長期的に続くデフレ・不況対策を優先してゼロ金利政策(低金利政策)を継続しました。これがきっかけで日米・日欧金利格差という新たな火種を発生させてしまったのです。

景気・物価対策を実施するにあたり、具体的には金融政策、財政政策、貿易や海外投資に影響を及ぼす為替政策の3つの政策が行われます。

景気・物価対策はどうすればいいのか

以下、わかりやすくデフレ・不況対策を説明します。先述の公式通り、流通通貨量を増加させると考えてみましょう。

①金融政策(中央銀行=日本銀行がお金の貸し借りに影響を及ぼす政策)

日本銀行が行う三大金融政策

(1)金利政策(金利の引き上げ or 引き下げ)
(2)公開市場操作(買いオペレーション or 売りオペレーション)
(3)預金準備率操作(引き下げ or 引き上げ)

(1)金利政策(金利の引き下げ)
流通通貨量を増やすためには、企業や個人など国民がお金を銀行から借りたいと思わせればいい。つまり、銀行の貸出金利を引き下げて、資金需要を高める政策をとれば良いのです。市中銀行の貸出金利を引き下げるため、日本銀行(以下、日銀)の貸出金利を引き下げて、市中銀行の貸出金利を低めに誘導するのです。現実には、 市中銀行の貸出金利の基準になっている日銀の市中銀行への貸出金利(かつての公定歩合、現在の基準金利)や銀行間の貸出金利(無担保コールレート翌日もの)などを引き下げます。いわゆるゼロ金利政策や一部で導入されているマイナス金利は、異次元の金融緩和政策によるデフレ・不況対策ということになります。

(2)公開市場操作(買いオペレーション)
日銀が市中金融機関から有価証券(手形・小切手・売れ残り国債など)を買い取る操作を実施します。代金を市中銀行に支払うことによって、市中銀行の手持ち資金を増やすのです。

市中銀行が持つ資金を直接増やし、市場に出回る通貨量を増やすことから量的金融緩和と言われています。 

アベノミクスなど最近の金融政策では、買いオペレーション(買いオペ)による量的金融緩和が重視されているんです。銀行の手持ち資金を増やせば、貸出金利を低めに誘導することもできますしね。

(3)預金準備率操作(引き下げ)
銀行は国民などからの預金を企業などに融資しますが、預金の全てを貸出に回すと、貸し倒れして回収不能金が発生した場合に預金者への預金返却も不能となり、銀行が倒産してしまいます。そのようなリスクを回避するため、預金の一定割合は日銀に強制的に預金することが法律で定められています。これを預金準備金(支払準備金)といい、その割合を預金準備率(支払準備率)と呼びます。 

デフレ・不況対策としては、銀行の貸出金額をできるだけ減らしたくないので、預金準備率を引き下げて低く設定します。

ちなみにアベノミクス(2012年12月〜2020年9月)は、この3つの金融政策を日銀の黒田東彦総裁(当時)とともに粛々と実施しました。いわばセオリー通りの政策ですが、徹底して実施し異次元の金融緩和と呼んで、市場の心理を煽っていたのです!

②財政政策(財政出動の徹底)

財政政策は、日銀ではなく政府が予算を通じて国民に公的サービスを実施する政策ですが、流通通貨量にも影響を及ぼすので、景気や物価を調整し、経済を安定化させる重要な機能を併せ持っています。

財政(特に国家予算)で見る際には、国が国民からお金を集める歳入面、国が国民にお金を支出する歳出面の2つから見ることが大切です。

デフレ・不況対策としては、流通通貨量を増やすことが必要ですから、

・歳入面では、税率を引き下げるなどの減税を実施する
・歳出面では、公共投資の拡大や社会保障支出の拡大など財政支出の拡大(スペンディング・ポリシー)を実施する

これをメディアは財政出動などと報道しています。 

政府から見ると、税金を取らずにお金をばらまくことなので、出血大サービス。つまり、赤字財政の実施ということになります。

国が税金を取らずにお金をばらまくと言っても、お金が足りませんよね。そのお金はどう調達するのでしょうか?ズバリ、国が市場から借金をする(お金が余っている人から国が借金をする)ことになります。これが赤字国債の発行なのです。

2020年のコロナショック対策として、安倍晋三政権は巨額の財政出動を行いましたが、その財源として組まれた補正予算のほとんどが国債(特に赤字国債)の濫発であったことは記憶に新しいです。 2020年度一般会計予算の国債依存度(借金割合)がなんと70%を超えたことは、後世代に大きなツケを残すことになるでしょうね。

③貿易、海外投資、為替政策

外国為替相場(為替レート)の操作によって、輸出・輸入などの貿易や海外投資の動きに影響を与えることも、重要な物価・景気対策となっています。特に近頃はボーダーレス・エコノミーと呼ばれているように国際取引が国内経済に大きな影響を及ぼします。このような国際的視点を忘れると、大きな政策ミスや経済予測の判断ミスを招きかねません。為替レートのメカニズムは本書の別の箇所で詳しく述べますので、ここでは、ざっくりとした結論を述べることにします。

デフレ・不況対策としては、国内流通通貨量を増やすために、日本からの輸出を促進して海外からお金を稼ぐこと、海外からの日本への企業進出、株式投資を増やして日本への通貨流入を増やすこと、さらに訪日外国人観光客を増やしてインバウンド需要(外国人観光客の日本での消費)を増やすことが大切です。そのためには、円安=ドル高に誘導することが必要です。つまり、円売り・ドル買いの外国為替市場介入を行うことがベターなのです。

円安=ドル高になれば、日本の輸出品はドルで支払えば安くなるので輸出が伸びていきます。日本の株式もドルで支払えば安くなるので、外国人は日本の株式を買ってくるでしょう。 

最もはっきり見えるのは、ドル高=円安で日本への旅行が割安になるので、訪日外国人が増加することでしょう。これらは、日本の景気回復に寄与することになるでしょう!

このように、デフレ・不況対策は、金融緩和・財政出動・円安誘導による輸出促進などを、ブレずに一貫して実施すればいいのです。このように政策を連関的に行うことを、ポリシー・ミックスと呼んでいます。ただ、現実には、財源不足のために財政出動が機動的に できず、不況なのに消費税率を引き上げざるを得ないなど政策がブレてしまうというジレンマが生じているのです。為替政策も他国との関係から政策協調が必要なため、単独で実施することは難しいという問題があります。

なお、主要 7カ国首脳会議(G7)や20カ国・地域の首脳会議(G20)、 財務相・中央銀行総裁会議が毎年開かれるのは、経済の国際化によっ て、各国間の協調が国内経済政策としても重要性を増していることの証明と言えるのです。


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