FINDERS

ロシア・ウクライナ戦争で生じる「日本の危機」とは何か。これまでの経緯と日本の安全保障問題をわかりやすく解説
  • BUSINESS
  • 2023.07.26
  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!

ロシア・ウクライナ戦争で生じる「日本の危機」とは何か。これまでの経緯と日本の安全保障問題をわかりやすく解説

Photo by Shutterstock

ロシアによるウクライナ侵攻は、日本からすれば遠く離れたヨーロッパで起こっていることもあり、自分の暮らしとは関係ない出来事だと思っている人もいるかもしれない。しかし、それは残念ながら誤りである。

資源価格、エネルギー価格の上昇といった経済的な影響もさることながら、「武力による他国侵略を容認するのか」という点に関しては、中国による台湾侵攻、そして北朝鮮のミサイルによる威嚇といった安全保障上の懸念を抱える日本にとって全く他人事では済まない大問題だ。

本稿では、東進ハイスクールや駿台予備校などで政治経済の授業を長年担当してきた清水雅博氏が、2022年2月に行われたウクライナ侵攻の経緯、現在の国連が抱える問題点、そして日本の安全保障体制の変化、近隣アジア諸国との関係性についてわかりやすく解説する。

※本記事は7月1日に出版された清水雅博『今さら聞くのは恥ずかしい 大人のための政治経済入門』(徳間書店)の内容を再構成して掲載しています。

こちらの記事もぜひお読みください↓↓↓
「日本経済にとって円安は良い」と言われてたのに今はなぜ「異常な円安」と問題視される?有名予備校講師がわかりやすく解説

「不況を脱する仕組み」「インフレになる条件」って説明できる?有名予備校講師がゼロからわかりやすく解説

清水雅博

予備校講師

東進ハイスクール・東進衛星予備校、駿台予備学校にて、「政治・経済」「倫理」「現代社会」「公共」を指導。年間1万人もの生徒が受講する超人気講師。政治と経済のメカニズムを明快に分析する論理的な指導にユーモアを含む授業は、受講生から圧倒的な支持を獲得。入試頻出ポイントや時事問題の本質を明確に示す情熱的な指導で生徒をグイグイ引き込み、難関大学への合格者はのべ30万人を超える。著書『政経ハンドブック』と『一問一答』は、政経受験者の80%が愛用しているといわれる大ベストセラー。ニュース時事能力検定(N検)の創設メンバーでもあり、検定委員を担当。YouTubeでは社会人・就活生・受験生に役立つ最新時事ニュースの解説動画や受験関連情報を発信。
YouTubeチャンネル「清水政経塾」
https://www.youtube.com/@ShimizuSeikeiJuku

ロシア・ウクライナ戦争によって生じる「危機」とは何か

①核戦争の危機

2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領が「特殊軍事作戦」 と称して、ウクライナの首都キーウ、東部ハルキウ、南部オデーサなどの都市への攻撃を開始しました。ロシアとウクライナは、ベラルーシとともに旧ソ連邦を構成したスラブ系共和国で、いわば兄弟同士でしたが、1991年12月の旧ソ連邦解体により、現在は、別々の独立国家になっています。それを、ロシアが一方的に侵攻して、 ロシアの領有下に収めるというのは、まさに力による現状変更に当たり、決して許されることではありません。

ウクライナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦を表明し、アメリカやEU諸国に軍事的・経済的支援を求めました。ロシアのプーチン大統領は短期的に併合は可能と考えていた節がありますが、アメリカ、EU諸国、日本など民主主義と自由を標榜し、同じ価値観を共有する国々の支援を受けたウクライナの抵抗は強く、長期の消耗戦に突入していきました。

②ロシアがウクライナ侵攻を行った狙い

2014年3月にロシアがウクライナ・クリミア半島のクリミア自治共和国などを一方的に併合したことに遡ります。2022年2月のウクライナ侵攻は、ロシアにとって飛び地になっている南部のクリミア半島に続く、ウクライナの東部のルハンスク州、ドネツク州、 南東部のザポリージャ州、へルソン州をロシアの領有下に収め、クリミア半島に続く陸路を確保しようとしたものと言えます。

ロシアにとってクリミア半島は、西側欧州諸国からの攻撃を食い止める壁の役割を果たす重要な拠点です。もともと旧ソ連軍の黒海艦隊基地があり、その重要拠点を親欧米派政権に変わったウクライナの支配下に置くことは、ロシアのプーチン大統領には到底許されないことだったのでしょうね。

2014年3月にロシアがウクライナ領有下のクリミア半島を併合した際は、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が民主化運動の激化で失脚し、親欧米派・民主派のポロシェンコ大統領に交代するという状況下でした。親欧米派・民主派政権の支配下に入るクリミア半島をロシアが力で奪い取ったという側面が強いですね。

併合の手法も、まずは軍事的支配を強め、ロシア併合の是非を問う住民投票をロシア軍の監視下で行い、住民の多くがロシア併合に賛成したとして、プーチン大統領がロシア併合宣言を出すというやり方でした(2014年3月16日〜18日)。

今回のウクライナ東部、南東部のルハンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州でも、同じ手法で住民投票を実施して、どの州も80%台後半〜90%台後半の住民がロシア併合に賛成であったという結果を発表し、ロシア併合宣言を出しました(2022年9月23〜30日)。

もちろん、アメリカも欧州諸国も、ロシア軍の監視下で行われた一方的な投票であり、正当性はないという主張をしています。ウクライナのゼレンスキー大統領も、これを認めず、領土回復の戦争を継続していったのです。

2023年6月には、ウクライナはロシアに対する反撃を強化し、 同月10日、ゼレンスキー大統領が反転攻勢に入ったことを認める発言を行い、重大な局面に突入していきました。

③核攻撃の危険性

ウクライナの徹底抗戦で消耗戦に入ったロシアは、アメリカ・欧州諸国との代理戦争の状況の中で苦戦を強いられてきました。追い詰められたロシアがこの戦況を打開するために、核攻撃を行うのではないかという、核戦争のリスクも否定できません。

2023年3月にはロシアがベラルーシに短距離核の戦術核兵器を配備する方針を示し、ウクライナを核兵器で包囲する戦術を展開しています。

アメリカの科学雑誌『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』が2023年1月、人類滅亡を午前0時に見立てた「終末時計」の残り時間が「残り1分30秒」になったと発表しました。 過去最悪の核戦争の危険が迫っているのです。

ロシア軍が2022年8月以降、ウクライナのザポリージャ原発に複数回砲撃を行いロシア軍の支配下に置いたり、南ウクライナ原発への砲撃を行いました。ウクライナの電力を制圧するだけでなく、 原発砲撃は核攻撃に等しい放射能汚染を引き起こしかねません。原発が攻撃の対象になるという懸念を、史上初めて現実的に証明した戦争と言うことができます。

追い込まれたロシアのプーチン大統領が核攻撃を行うという可能性はゼロとは言えません。

この戦争の解決には、力による現状変更は決して許さない、核の使用は決して許さないという国際的結束が必要です。多くの西側民主国家は、この立場にありますが、残念ながら社会主義諸国である中国や北朝鮮、ロシア・中国からの経済支援を受けているグローバル・サウスと呼ばれるアフリカ諸国や中央アジア諸国は、必ずしも一枚岩ではありません。アメリカとロシア、両方との関係を考慮して全方位外交を行うトルコやインドもあり、世界の歩調の乱れが、 戦争を長期化させる要因となっています。2023年5月に開かれたG7広島サミットでは、法の支配という同じ価値観を持つ西側の結束は図れたでしょうが、異なる立場の国々との協力をどう取り付けるかが、戦争解決のカギとなっているのです。

岸田首相が、正式なG7加盟国の日本、アメリカ、イギリス、フ ランス、ドイツ、イタリア、カナダに加えて、特別の招待国として侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領を対面で招いたことはもちろん、オーストラリアやグローバル・サウスの主要国であるインド、ブラジル、インドネシアに加えて韓国やアフリカ連合の議長国を招いたことには、深い意味が込められていました。

我が国が、力による現状変更を認めない理由としては、これを認めると今後、インド・太平洋地域でも中国の力による台湾併合が、 なし崩し的に行われる可能性があるという点があげられます。力による現状変更を認めないという国際的コンセンサスを今、確立することが、日本の平和にとって重要だという点は見逃せません。その意味で、2023年5月にG7サミットが人類史上初めて核兵器が投下された被爆地広島で開かれたことには大きな意義があったと言えます。

国際連合による平和実現の限界が露呈

①安全保障理事会がマヒ

2022年のロシアのウクライナ侵攻で露呈したのは、国連の安全保障理事会が常任理事国であるロシアの拒否権によって機能不全に陥っているということです。

そもそも国際連合は、第二次世界大戦に勝利した連合国によって作られたものなので、連合国には特権が与えられています。戦後の平和は、戦争に勝利した大国の一致なくしては、あり得ないという理念に立っています。平和・安全問題については、5常任理事国(現在、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)と、10非常任理事国(任期2年、総会で選出)の計15理事国で構成される安全保障理事会が、第1次的責任を負うことになっています。たとえば侵略行為に対する軍事・非軍事的制裁発動などの実質事項の決定には、 5常任理事国すべての賛成と4非常任理事国の賛成が必要とされています。つまり、 5常任理事国のうち一カ国でも反対すると実質事項は成立しないという仕組みになっており、常任理事国には拒否権が与えられています。その結果、5常任理事国が侵略の当事者である場合、その国は拒否権を行使するでしょうから、安全保障理事会は完全にマヒしてしまいます。したがって、ロシアの侵略行為に対する国連の制裁は発動できないし、将来、中国が台湾併合の軍事行動をとったとしても、中国の拒否権で対中国制裁の発動はできないのは確実です。

安全保障理事会が侵略行為に対して決定する制裁措置には、軍事制裁だけでなく、外交・経済制裁などの非軍事的措置も含まれますから、国連としては、ロシアに対して、外交・経済制裁すら発動で きないことになります。国連は無力ですよね。

結局、安全保障理事会が拒否権でマヒしたので、緊急特別総会を 開いて、対ロシア非難決議および即時撤退を求める決議案を3分の2以上の賛成多数(重要事項の議決の要件)で採択するにとどまりました。ただ、平和安全問題は安全保障理事会が第1次責任を負っているので、総会は補充的責任を果たすだけで、強制措置の決定ができません。総会は勧告するだけなので、即時撤退の要請・勧告を行ったにすぎず、ロシアに無視されても、何ら制裁を加えることができないのです。

②国連改革が必要では?

特に安全保障理事会の改革を求める声は高まっています。

2000年代初めにも、当時の小泉純一郎政権下で、日本・ドイツ・ ブラジル・インドの4カ国が常任理事国入りを求めました。しかし国連の重要な改革については 5常任理事国の一致が成立要件になりますから、実現することはありませんでした。

せめて、侵略行為を行った紛争当事国を除く常任理事国の一致(制裁対象となっている常任理事国の拒否権を制限する)に国連憲章を改正すると良いのですが、国連憲章改正にも5常任理事国の一致が必要ですから、実現は困難な状況にあります。

とはいえ、唯一の被爆国、日本が国連改革のリーダーシップを執ることは重要です。2023年5月、G7広島サミットでは、議長国を務めたわけですから、世界各国・地域に問題を提起する大きなチャンスだったのです。わざわざ広島で開催したわけですから......。

日本は、2023年1月から2年間、世界最多・12回目の非常任理事国に選出されています。日本の存在感を示してほしいですよね。

ちなみに、我が国は6年おきに非常任理事国に立候補し、当選してきたということが多いのですが、次の立候補は2032年と10年後を予定していると日本政府は発表しました。岸田政権としてはグロー バル・サウスに非常任理事国になるチャンスを拡大したと言っていますが、平和実現に向けての日本の存在感が薄れないかが心配です……。

今後のインド・太平洋地域の平和は?

①緊張が高まるインド・太平洋地域

東アジアの我が国、東南アジア、南アジア、豪州地域の緊張が高まっています。ロシアのウクライナ侵攻を表立っては支持しないものの、裏で支持している中国の習近平国家主席は、中華民族の統一、 一つの中国実現のため台湾併合を民族の悲願であると繰り返し発言しています。力による現状変更に対する国際的反応と国連の限界を冷静に見極めているようにも見えます。東シナ海の尖閣諸島を巡っては再三、日本に対して圧力をかけ、東南アジアに向けても人工島建設によって海洋権益および軍事拠点を拡大する膨脹政策をとっています。

②核ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮

このようなインド・太平洋地域の混乱に便乗し、北朝鮮も近頃、核搭載可能ミサイルの発射実験を繰り返し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾する例も増加しつつあります。2022年5月の韓国尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の就任による米韓共同軍事演習の実施や日韓の融和ムードへの警戒感の現れといえるでしょう。発射されるミサイルも最高高度6000km超え、飛行距離1000km超えの大陸間弾道ミサイル(ICBM)で、意図的に高い角度で発射する「ロフテッド軌道」 の「火星17号」であったり、極超音速の新型弾道ミサイル、発射場所が特定しにくい移動式の発射ミサイルなど、性能は急激に向上しています。陰に中国の存在も疑われますね。

台湾海峡問題・朝鮮半島有事は連動的に起こる可能性もあり、そこにロシアが協力するというシナリオも否定できません。

ロシアのウクライナ侵攻を非難する日本に対しては、ロシア・中国の艦船が隊列を組んで日本列島を一周して威嚇したり、北朝鮮がミサイル発射実験を日本海に向けて繰り返すという極度の緊張状態に陥っています。  2021年に就任したアメリカのバイデン大統領も日本の岸田首相と協力して、日米同盟強化を進めています。2022年5月には、韓国も反日派の文在寅大統領から親日派の尹錫悦大統領に代わりました。日本・アメリカ・韓国が強固に協力してインド・太平洋地域、 特に極東の安全を守り抜くというのが政府の基本方針となっています。

さらに2021年9月には、日本・アメリカ・オーストラリア・イ ンドの4カ国による外交・安全保障の協力体制である日米豪印戦略対話(クアッド、QUAD)初の首脳会議が開かれています。「自由で開かれたインド・太平洋」の秩序を守り抜くという方針が共同声明で示されています。

日米韓のみならず、オーストラリアやインド、さらには多くのインド・太平洋地域の国々が協力して法の支配と秩序を守る協力体制を確立し、力による現状変更を抑止することが何より大切となるでしょう。

③日本と韓国の融和を目指す尹錫悦政権

尹大統領は、日韓関係を未来志向で考え、日韓関係を改善し、より高いレベルに発展させたいと発言しています。

元徴用工問題(太平洋戦争中に日本企業が韓国人労働者を徴用した問題)については、韓国の最高裁判所が、日本企業(三菱重工、 日本製鉄)に命じた損害賠償について、併存的債務引受案を提唱しました。判決によって日本企業が支払うことになっている損害賠償金を韓国が作る財団基金(韓国の民間企業が寄付などで拠出する基金、日帝強制動員被害者支援財団)が当面肩代わりして、被害者に賠償金相当額を支払うという第三者弁済による解決策です。事実上、 日本企業の負担を免除するという苦肉の策と言えます。

日本側としては、日本の歴代内閣が示した反省と謝罪の意向を堅持する立場を表明し、「弱腰外交」だとする尹政権への韓国内の反発を抑えるための援護を行いました。

ただ、2015年に安倍政権(当時の外相が岸田氏)が朴槿恵政権と約束した従軍慰安婦問題の不可逆的解決についても、政権交代した文大統領が撤回し、むし返した過去の経験があります。今回も政権が代わると再びむし返される可能性も懸念されるものの、日本側が拒否する理由もないことから、日韓関係の未来に向けての改善可能性を優先した形です。

日本の平和・安全はどう守るべきか?

①防衛費を5年で2倍に

緊張が高まる中、岸田首相は、向こう5年間で防衛予算を2倍にするという方針を示しました。2023〜27年度の間にその額を、 2020年度の5.4兆円から2倍の11兆円程度に増額するというのです。 

平和主義に立つ我が国は、三木武夫内閣(1972〜76年)が示した防衛費GNP1%枠を中曽根康弘内閣が撤廃する1987年まで守ってきました。中曽根政権が GNP1%枠を撤廃したものの、ほぼ1%程度(若干超える程度)に抑えてきました。それを5年間で2倍にして、GNP2%程度とするというのは、ものすごい方針転換です。 岸田首相は、新しい資本主義、弱者にも配慮をと言いながらも、超タカ派(強硬派)の政策を進めているとも言えます。

ただ、前述のようなロシア、中国、北朝鮮の状況下で防衛費を増額するという方針が、国内で大きな反発を受けないで進められている印象もあります。防衛政策の転換は、危機感を煽る長いスパンでの世論形成の下に進められるというのが常套手段であることは有名な話ですが、防衛予算の急激な増額は、他国への挑発にもなり、 逆に緊張を高める側面があることも忘れてはなりません。

②岸田内閣が「敵基地攻撃能力」保持へ

岸田内閣は2022年12月、国家安全保障戦略などの安全保障関連三文書を閣議決定し、歴代内閣が否定してきた「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保持を文書に明記し、安全保障戦略を強化しました。 岸田首相は「反撃能力」を保持すれば抑止力が高まると発言していますが、前述したように中国や北朝鮮を挑発してむしろ緊張を高め、軍事力強化の負の連鎖を生みかねないと指摘する専門家の意見もあります。

敵基地攻撃能力(反撃能力)とは?

我が国の防衛戦略として、敵国がミサイルを発射する前にミサイル発射台を攻撃する能力を保持すること。自衛権の行使は、先制攻撃は許されず、専守防衛に限るというのが大原則ですが、敵基地攻撃能力を持ち、行使することは、専守防衛の原則に違反するという反対論も存在します。

岸田内閣が「敵基地攻撃能力」の保持に転換した背景には、北朝鮮が保有する核ミサイルが超音速のレベルになりつつあり、発射された後に、迎撃することが技術的にも距離的にも困難になりつつあるという現実の問題があります。この結果、ミサイルが発射される前に、発射台を撃ってしまうことが現実的に必要だとの判断に至ったのでしょう。また、地政的にも日本海側には原子力発電所が複数あり、攻撃のターゲットになりかねません。

③敵基地攻撃能力は安全保障関連法の既定路線

敵基地攻撃能力の保持および行使は、専守防衛の原則に反し、自衛権の枠を越え、憲法9条に違反する疑いがあることから歴代内閣はこれを認めてきませんでした。しかし、2015年に安倍内閣が安全保障関連法を制定し、これが憲法9条には違反しないとする立場を採りました。その立場からすると、敵基地攻撃能力の保持・行使は、当然認められるというのが、既定路線となっていました。安倍派の立場から、敵基地攻撃能力の保持を求めたのは予定通りの結論だったのでしょう。

この安全保障関連法に基づく切れ目のない安全保障によると、たとえば、北朝鮮が日本の領土に向けてミサイルを発射した場合は、「武力攻撃事態」に該当するので個別的自衛権が発動することに異論はありません。

次に「武力攻撃事態等」(武力攻撃予測事態を含む)については、 北朝鮮が、東京を火の海にすると発言し、発射台にミサイルを配備し、燃料を注入した段階ということになるでしょう。日本への武力攻撃の蓋然性が高まり、ミサイルが発射される寸前に達していると考えられる状況ですね。

この時点で、個別的自衛権は発動すると政府が理解しています。 だとすると、安全保障関連法の解釈として「敵基地攻撃能力」の保持・行使は、そもそも可能であると見ていたと言うことになります。

だから、敵基地への攻撃も国会審議にかけることなく、政府・内閣の密室的な閣議決定で行うことは可能となります。安全保障関連法の怖さは、法律さえ出来てしまえば、当時の内閣が否定していたとしても後の内閣の政策判断で法律運用が行われてしまう点にあります。法律は出来ているわけですから、国会における野党の抑止力はききにくく、政府が一方的に暴走するリスクがあるということです。それを実施する予算も内閣が提出し、内閣を構成する与党が多数派を占める国会が議決するのです。やはり、最後は主権者たる私たち国民が厳しい目をもって監視する必要があるでしょう。このような政策の財源負担は、最終的には国民の租税ということですから、 国民は、自分たちの生命を守る方法が是か非か、そしてこれが是だとすれば、それを支える税負担をする覚悟があるのかも問われることになります。なにしろ相当な防衛予算の増額を半永久的に続けることになるのですから。


今さら聞くのは恥ずかしい 大人のための政治経済入門

こちらの記事もぜひお読みください↓↓↓
「日本経済にとって円安は良い」と言われてたのに今はなぜ「異常な円安」と問題視される?有名予備校講師がわかりやすく解説

「不況を脱する仕組み」「インフレになる条件」って説明できる?有名予備校講師がゼロからわかりやすく解説

  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!

SERIES

  • スタッフ目線で選ぶイベント現場弁当
  • あたらしい意識高い系をはじめよう|倉本圭造|経営コンサルタント・経済思想家
  • 高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」|高須正和|Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development
  • オランダ発スロージャーナリズム|吉田和充(ヨシダ カズミツ)|ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
  • 高橋晋平のアイデア分解入門
  • READ FOR WORK&STYLE|岡田基生|代官山 蔦屋書店 人文コンシェルジュ