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左翼と右翼、フェミと反フェミ、時代遅れとイノベーション…「ほんのちょっとの工夫」で分断の時代は超えられるはず(後編)【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(0)
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  • 2020.04.17
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左翼と右翼、フェミと反フェミ、時代遅れとイノベーション…「ほんのちょっとの工夫」で分断の時代は超えられるはず(後編)【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(0)

社会問題では「ミクロには妥協しない、マクロには対話する」

―― それは経営とか経済だけじゃなくて、いろんな社会問題に対する課題でも同じことが言えるかもしれませんね。

倉本:そうなんですよね。「古い社会」が持っているいろんな要素を徹底的に悪!だと捉えて非難しているだけだと変わっていけない問題がたくさんあるんですよね。

―― この辺りの問題が難しいのは、マイノリティにしろフェミニストにしろ、抑圧されている側としては「まずその踏んでいる足(抑圧)をどけてくれ」と言わねばならない段階にあるからだ、という認識が広がっているからだということもありますよね。そしてその物言いが気に食わない層が反発して一向に問題が解決しないという。

倉本:それはまっとうな指摘だというか、ほんとうに今まさに足を踏んづけられている人はまずそれをみんなに伝えなくちゃいけないというのはまったくその通りです。

ただ、その「異議申し立て」と「社会のがわの事情」をちゃんとすり合わせて解決する回路が全然働かないで言いっぱなしに放置されてしまうから、結局異議申し立てそのものを抑圧せざるを得なくなってしまうんですね。

たとえば、こういう「日本古来のもの」と「グローバルな状況変化による新しい考え方」の対立が、今社会問題的に一番紛糾しているのはフェミニズム的な考え方と日本社会の対立だと思うんですけど。

文通」のクライアントにはフェミニスト的な考え方の女性もちょくちょくいるのですが、そういう人に僕がいつも言ってるのは、「ミクロには妥協しない、マクロには対話する」ってことなんですね。

ミクロには妥協しないっていうのは、たとえばセクハラだとか、職業上の差別だとか、たまに日本の高齢政治家とかが「いつの時代やねん」的な性差別的なこと言ってネットで炎上してますが、そういうのに怒ったり糾弾したり改めさせることは全然容赦しなくてよくて、むしろバンバンやったらいいんですよ。

「フェミニズム」に対して結構厳しい態度をSNS上の論戦(というか罵り合い)では見せるタイプの人でも、そういうことに関してはほとんど反対の人はいないと思いますし、世間的なコンセンサスも実はすでにあるし、バンバンやればやるほど喝采を受けるぐらいだと思います。

だから「ミクロな」ことはバンバン糾弾していいし怒っていいんですが、それが「マクロ」な問題に関わってくる時には、諦めなくてもいいけど対話することが必要というか、「そうなっている理由」をちゃんと深堀りする作業が必要なんですね。

―― 確かにそうですね。

倉本:たとえば医学部入試の女性差別問題とか、それ自体もちろん是正されていくべきだと思いますが、その背後には崩壊寸前の国民皆保険制度をなんとかやりくりしながら、日本人が求める安くて便利でハイレベルの医療を凄い安い自己負担で万人に提供しようとする必死の努力があるわけですよね。

昔ネットで匿名の女性医師が、「女性医師も厳しい労働環境の診療科で頑張って働かないと、今後女性医師が増えたら医療崩壊してしまう。それはわかってるから頑張ろうと思ってたけど、私だって結婚したいし子供もほしい。だから申し訳ないけど私はラクな診療科に行って今の彼氏と結婚します」みたいな記事を書いていたのが凄い印象的だったんです。

これ、アメリカじゃあできてるのに日本じゃできないのは日本の男が性差別的だからだ…って言うだけでは解決できない問題ですよね。じゃあアメリカみたいに貧乏人はマトモな医療が受けられない国にしていいのか?みたいな話になるわけなので。

今のフェミニストは、こういう問題が起きた時も全部「日本の男が差別的だから全部ダメなんだ」みたいなことばっかり言うんで、「医療制度をどうすれば、女性医師の働きやすさにちゃんと配慮しながら、日本人が満足できるクオリティの医療を万人に向けて受け入れ可能なコストで実現できるのか?」という問題の根本のところに話が全然進まないんですよね。

そういうすれ違いが放置されていると、結局フェミニストの言うことを実現すればするほど、マクロに見た時に日本社会はどんどん「どこかにシワ寄せをしてとりあえず解決する」みたいなことばっかりすることになる。そういうことばかりやってると社会が崩壊してしまうので、結局どこかで女性の意見を抑圧することが必要になってしまう。

ミクロに見た時の「医学部試験の女性差別」は解消しましょう…というのは全然妥協しなくていいけど、その先の「方法」を考える時に、ちゃんと「マクロの問題」については真剣に実務家さんたちに働きかけて共同戦線を作るようにしていかないと、結局ミクロな部分の怒りも抑圧せざるを得なくなってしまうんですよね。

別に、実際に試験で差別されて落とされた女の子にそこまで考えろって話じゃないんですよ。そういうミクロの怒りを吸い上げるフェミニズムムーブメントのリーダーたちは社会経験も視野の広さも学識もあるわけですから、ただ「日本の男が性差別的だ」と悲憤慷慨してみせるだけじゃなくて、そういう「具体的な改革テーマの投げかけ」までやってくれないと。

そのあたりで、「ミクロには妥協しない、マクロには対話する」あたらしい意識高い系のモードが浸透してくれば、「ミクロ」な話で女性の意見を抑圧する必要性がそもそもなくなっていくので、普段SNSで常に怒り心頭に発しておられるフェミニストのかたがたも、最終的には生きやすい世の中に変えていけると思います。

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